多目的コホート研究(JPHC Study)
野菜・果物と前立腺がんとの関連について
「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、大阪府吹田、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の10保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった、45~74才の男性約4万3千人の方々を、平成16年(2004年)まで追跡した調査結果にもとづいて、野菜果物の摂取量と前立腺がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Nutrition and Cancer 2010年62巻30-39ページ)
今回の研究では、追跡開始時におこなった食習慣についての詳しいアンケート調査(野菜果物;46食品)の結果を用いて、野菜・果物の1日当たりの摂取量を少ない順に4グループに分け、その後の前立腺がんの罹患率を比べました。その結果、野菜も果物も、摂取量が多くなっても、前立腺がんに罹るリスクは変わりませんでした。野菜の種類別(トマトやアブラナ科野菜など)に検討しても、関連は見られませんでした。
野菜・果物ともで前立腺がんリスクと関連なし
追跡期間中に339人に前立腺がんの罹患が確認されました。前立腺がんのリスクを、果物と野菜それぞれの摂取量によって分けた4グループ間で比較しました。前立腺がんのリスクは高齢など他の要因によっても高くなることがわかっていますので、あらかじめこれらの影響を除いて検討しました。その結果、前立腺がんリスクと、野菜・果物の摂取量のいずれも関連が見られませんでした(図1)。
次に、野菜の種類別(緑葉野菜、アブラナ科野菜、黄色野菜、トマト類)に検討しました。しかし、どの野菜の種類でも、前立腺がんのリスクとの関連は見られませんでした。
進展度別にみても関連なし
さらに、前立腺がんの進展度別に、野菜・果物と、種類別の野菜の摂取量との関連を調べました。しかし、野菜・果物のいずれの摂取量も、種類別の野菜も、前立腺内にとどまる限局性の前立腺がん・前立腺を越えて広がっているがん進行性の前立腺がんのどちらとも関連していませんでした(図2)。
野菜・果物と前立腺がんの関係を否定する研究が多い
同様の方法で、野菜・果物と前立腺がんの関連を検討した研究が、これまでに欧米から13件報告されています。そのうち2件のみ、野菜全体の摂取量と前立腺がんに予防的な関連を示しています(果物は関連なし)。野菜の種別では、アブラナ科野菜と限局前立腺がんに、緑葉野菜と進行前立腺がんに予防的な関連を報告した同様の研究がいくつかありますが、はっきりした結論には至っていません。
一方、トマト類と進行前立腺がんでは、摂取量の比較的多い欧米からの研究では、調理したトマトで概ね一致して予防的な関連を報告しています。日本人ではトマトの摂取量が少ないことや、欧米との調理法の違いにより、関連が見られなかった可能性もあります。
研究の限界
この研究では、前立腺がん検診の受診歴の情報を得られていないため、"検診による発見"の影響を除くことができませんでした(かわりに他の検診項目(大腸がんや胃がんなど)の受診歴を調整項目として加えましたが)。つまり、野菜や果物を積極的に摂取する人が、前立腺がん検診を積極的に受診した結果、野菜や果物の摂取の高い群でより発見される率(罹患率)が高くなり、ほんとうは予防的な関連が見えなくなっている可能性も否定できません。
野菜や果物は、やはり積極的に
野菜・果物は、胃がん・食道がんなど他の部位のがんや、循環器疾患に予防的であることに変わりはありません。国内の疫学研究結果をまとめ、評価している「生活習慣改善によるがん予防法の改善と評価」研究班でも、「野菜・果物不足にならない。例えば、野菜は毎食、果物は毎日食べて、少なくとも1日400gとる」ことを推奨しています。
※摂取量の推定値について: この研究で用いられている食物摂取頻度アンケート調査は、摂取の相対的なランキングには適していますが、それだけで実際の摂取量を正確に推定するのは難しいのが実情です。また、年齢や時代・居住地域などが限定された対象集団の値を、全ての日本人に当てはめることも適当とは言えません。ここで示す摂取量は、あくまでも参考値としてご理解ください。