多目的コホート研究(JPHC Study)
職業性座位時間と死亡との関連
-多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2013年現在)管内にお住まいだった方々のうち、10年後調査にご協力いただいた50~74才の男女で、調査時点で定職に就いていた約3万7千人の方々を対象に、平成23年(2011年)まで追跡した調査結果にもとづいて、仕事中の座位時間と死亡率との関連を調べました。その結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (Scandinavian Journal of Work, Environment & Health, 2015年41巻, 519-528ページ)
「座っている時間」は健康に関係するのか
近年、座っている時間(座位時間)が、運動(中・高強度身体活動)とは関係なく健康に影響するといわれます。様々な研究により、テレビを見る、パソコンをする等の「座って行う行動(座位行動)」の時間が長いと、普段、適度に運動をしていても、肥満、動脈硬化性疾患のリスクになることが報告されています。しかし、これまでの先行研究では、「余暇時間」の座位行動についてのみ検討され、「仕事中」の座位時間については、ほとんど検討されていません。そこで、多目的コホート研究では、仕事中の座位時間と、死亡との関連を検討しました。
今回の研究の分析対象者は、定職を持つ75歳未満の方36,516人です。平均で約10年の追跡期間中に、2209人の死亡が確認されました。研究開始時のアンケート調査により1日当たり仕事中に座っている時間を調べ、「1時間未満」を短座位時間群、「1時間以上、3時間未満」を中座位時間群、「3時間以上」を長座位時間群と定義しました。男女別、職種別(第1次産業(農業・林業・水産業)と第2~3次産業(勤務者、自営業者、専門職等))に分けて、短座位時間群に比べ、中座位時間および長座位時間群の死亡率に差があるかどうかを検討しました。
喫煙、飲酒、余暇時間中の身体活動、仕事中の身体活動、高血圧や糖尿病の影響を考慮して解析した結果、農業等の第1次産業従事者では、短座位時間群に比べ、長座位時間群のほうが、男性では1.23倍死亡率が高くなり、女性では1.34倍高くなる傾向にあることがわかりました。このことから、第1次産業においては、仕事中の座位時間が長いことにより死亡のリスクが高まる可能性が示されました。 これに対し、第二次産業と第三次産業従事者の間では、同様の関連はみられませんでした。
仕事中の座り過ぎに着目する研究の必要性が明らかに
仕事中の座位時間は第一次産業従事者において全死亡のリスクを上昇させました。座り過ぎない職場環境づくりも、今後重要になると思われます。しかしながら、第二次産業と第三次産業従事者についてはそのような関連はみられず、今後、仕事中のどの程度の座位時間により死亡率がどう変化するのかという関係について、客観的な計測方法を用いた検討が必要です。また、このような結果をもたらすメカニズムを明らかにするための研究も必要でしょう。
結果の注意点
仕事中の座位時間は、すべて自己申告であり、加速度計等の客観的な手法で計測したものではないことに注意が必要です。