多目的コホート研究(JPHC Study)
日常経験する問題や出来事に対する対処の仕方と循環器罹患及び死亡との関連について
—「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告—
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成12年(2000年)と平成15-16年(2003-2004年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所管内にお住まいだった方々のうち、50~79歳の男女約11万人の方々を、平成23年(2011年)まで追跡した調査結果にもとづいて、日常経験する問題や出来事に対する対処の仕方と循環器疾患罹患及び循環器疾患死亡との関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Eur Heart J.2016 Mar 14;37(11):890-899)。
精神的ストレスは、様々な健康アウトカムの危険因子であるとともに、それ自体が循環器疾患罹患と死亡を予測する因子であることが明らかになってきました。現在までの先行研究から、日常経験する問題や出来事に対する対処の仕方は循環器疾患罹患や死亡と関連があることが報告されています。そこで本研究では、日常経験する問題や出来事に対する対処の仕方と循環器疾患罹患・死亡との関連との関連を検討しました。
研究方法の概要
今回の研究対象に該当した57,017人のうち、追跡期間中に、304人に心筋梗塞、1,565人に脳卒中が発生しました。さらに、191人の虚血性心疾患死亡、331人の脳血管疾患死亡が確認されました。自記式アンケートのうち、日常経験する問題や出来事に対する対処の仕方に関する回答から、対処行動のパターンや対処戦略によって循環器疾患罹患及び循環器疾患死亡のリスクが何倍になるかを調べました。具体的には、日常経験する問題や出来事に対してどのように対処しているか、対処型行動として「解決する計画を立て、実行する」「誰かに相談する」「状況のプラス面を見つけ出す努力をする」、逃避型行動として「変えることができたらと空想したり願う」「自分を責め、非難する」「そのことを避けてほかのことをする」の、合計6つの行動パターンについてそれぞれの頻度を質問しました。それぞれについて多少の2群に分け、頻度の少ない群に比べた多い群の循環器疾患罹患及び循環器疾患死亡のリスクを調べました。
対処行動が循環器疾患死亡のリスクに影響
対処行動を対処行動なし、対処型行動、逃避型行動、対処・逃避両方のタイプ別にみると、循環器疾患罹患のリスクはタイプ別で有意な違いはみられませんでした(図1)。
図1. 日常経験する問題や出来事に対する対処の仕方と循環器疾患罹患との関連
また、循環器疾患を部位別にみたところ、対処型行動をとる人では、脳卒中のリスクが低くなっていることが分かりました(図2)。
図2. 日常経験する問題や出来事に対する対処の仕方と脳卒中との関連
さらに対処行動のタイプ循環器疾患死亡との関連をみたところ、対処型行動をとる人で循環器疾患死亡のリスクが低くなっていました(図3)。
図3. 日常経験する問題や出来事に対する対処の仕方と循環器疾患死亡との関連
さらに対処行動をそれぞれの6つのパターン別にみたところ、「変えることができたらと空想したり願う」対処戦略をとる人で循環器疾患罹患のリスクが高まることが分かりました。
この研究について
今回の研究では、積極的に解決する計画を立てて実行する対処型行動をとる人で脳卒中のリスクのみが低下し、心筋梗塞や循環器疾患全体での罹患との関連はみられませんでした。これは、循環器疾患発症の前段階である高血圧症や肥満を統計的に調整して解析したためと考えられます。また先行研究からも、対処型行動と生活習慣改善による血圧管理との関連が指摘されています。
今回の結果から、日常経験する問題や出来事に対して逃避型の対処行動をせず、積極的に解決する計画を立て実行するような対処型の行動をとる人は、積極的な健康診断受診を通じて循環器疾患の早期発見・早期治療の確率が高まる可能性があり、この結果循環器疾患死亡のリスクが低下したと考えられます。