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多目的コホート研究(JPHC Study)

婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクとの関連

—「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告—

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)および平成5年(1993年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいで研究開始時に既婚であった40~69歳の男女約5万人の方々を平均約15年間追跡した調査結果にもとづいて、婚姻状況の変化(既婚から非婚)と脳卒中発症との関連を調べた結果を発表しましたので紹介します(Stroke.2016 Apr;47(4):991-8)

 

婚姻状況の変化と脳卒中リスク

婚姻状況は健康に影響を与える重要な要因のひとつであり、一般に、既婚者は非婚者(離別・死別)と比較して健康状態が良いことが報告されています。また、婚姻状況の変化は循環器疾患の発症リスクを上昇させることも報告されています。しかし、現在までに脳卒中発症リスクとの関連、特に、脳卒中タイプ別の検討はほとんど行われていません。

また、婚姻状況の変化は様々な生活の変化を伴います。たとえば、配偶者を失うことにより居住形態や社会経済状況が変化することが往々にしてあります。居住家族の有無や社会経済状況は、婚姻状況の変化による健康への影響を変化させる可能性が考えられます。

そこで、本研究では、既婚から非婚への婚姻状況の変化が、その後の脳卒中発症のリスクにどのような影響を与えているかを脳卒中タイプ別に分析し、その関連が居住形態や仕事の有無によって変化するかどうかを検討しました。

今回の研究では、研究開始5年前に配偶者と同居していた方のみを対象とし、研究開始時の婚姻状況から婚姻状況変化(既婚(配偶者と同居)→非婚(配偶者と同居していない))の有無を特定し、その後の脳卒中発症のリスクを算定しました。

 

婚姻状況変化がある男女の脳卒中発症リスクが高い          

2,134人の脳卒中発症が平均約15年間の追跡期間中に確認されました。調査開始時期に婚姻状況変化がある人ほど、脳卒中を発症するリスクが高い傾向が確認され、特に、脳出血のリスクで強い関連がみられました。(図1)これらの関連に性差は見られませんでした。  

 

図1. 婚姻状況の変化と脳卒中罹患リスク
~婚姻変化ありの男女の脳卒中発症リスク~

 

なぜ婚姻状況の変化が脳卒中リスクを上昇させるのか?

婚姻状況の変化が脳卒中発症リスクを上昇させる理由として、配偶者を失うことによる生活習慣や精神状態の変化が考えられます。これまでの先行研究により、配偶者を失うと飲酒量が増えたり、野菜や果物の摂取が減ったりするような変化があることが報告されています。また、心理的ストレスレベルが上昇し、生活を楽しめなくなる傾向にあることも示されています。このような婚姻状況の変化により起こる様々な変化が脳卒中発症リスクを上昇させているのではないかと考えられます。

 

同居家族の有無により婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクの関連は異なるか?

次に、婚姻状況の変化の脳卒中発症リスクへの影響を、同居する子どもの有無別にみると、婚姻状況の変化を経験し子どもと同居する男女の脳卒中発症リスクが高い傾向が見られました。(図2) 男女ともに「親」という役目が、配偶者を失ったことによる影響を加重している可能性が示唆されています。

  図2. 子どもとの同居有無による婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクの関連

 

また、婚姻状況の変化の脳卒中発症リスクへの影響を、同居する親の有無別にみると、男性にとっては配偶者を失うことによる脳卒中発症リスクへの影響が親との同居していることにより軽減されるのに対し、女性にとってはその影響が逆に加重される傾向が見られました。(図3) 

図3. 親との同居の有無による婚姻変化と脳卒中発症リスクの関連

 

 

就労の有無により婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクの関連は異なるか?

婚姻状況の変化の脳卒中発症リスクへの影響を就労の有無別にみると、無職の女性の脳卒中発症リスクは高く、特に婚姻変化があった無職の女性のリスクは婚姻変化のない有職の女性の約3倍でした。(図4) 男性では無職者が少なく、統計学的に意味のある結果を導くことができませんでした。  

 

図4:就労の有無による婚姻状況と脳卒中発症リスクの関連 (女性)

 

この研究について 今回の研究では、ベースライン時の婚姻状況、居住形態、就労状況等が人によっては研究期間中に変化している可能性がありますが、その点について考慮することができませんでした。その点に注意を払う必要がありますが、これまで日本において婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクの関連を示した疫学研究はなく、また、その影響が個人の居住形態や就労状況によって異なる可能性を示したものはありませんでした。婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクの全体的な関連では性差がみられませんでしたが、居住形態や就労の有無による影響において性差がみられることは、今後、脳卒中発症におけるハイリスク者を把握する際には、人をとりまく社会環境も考慮する必要があることを示しています。

 

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