多目的コホート研究(JPHC Study)
巨大児出産歴と糖尿病有病率、糖尿病発症率の関連について
—「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告—
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関連を明らかにし日本人の生活習慣予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に11保健所管内に居住する40~69歳の女性のうち1998~2000年度(ベースライン調査)および2003~2005年度(5年後調査)に実施された糖尿病調査に参加した人を対象とし、巨大児出産歴(4000g以上の児の出産)があることと糖尿病のリスクの関連を調査しました。この結果を専門誌にて論文発表しましたので紹介します(PLoS ONE.2013 19;8(12):e84542)。
巨大児出産歴のある女性のその後の糖尿病のリスクについて
妊娠中の母体の高血糖が胎児の過成長につながることは知られています。また、妊娠は一時的かつ生理的なインスリン抵抗状態として知られおり、こうした状況下にて血糖値の上昇をきたす場合は将来の糖尿病発症のリスクとなる可能性が考えられます。これらの背景から、巨大児を出産した既往のある女性は糖尿病のリスクが高いと考えられますが、これを検証した報告は少ないため、今回この関連を「多目的コホート研究(JPHC研究)」の「糖尿病研究」において解析しました。具体的には、上記の参加者を対象とし、5年後調査を用いた「巨大児出産歴と糖尿病有病率の関連」の横断的解析と、ベースラインと5年後調査の両方を用いた「巨大児出産歴と5年後の糖尿病発症の関連」の縦断的解析の二つの解析を施行しました。
横断的解析:巨大児出産歴と糖尿病有病率
5年後調査にて横断的解析を行なった結果では、5年後調査に参加した女性12,153名のうち1,109名(9.1%)が糖尿病を有していました。出産経験があり、かつ巨大児出産歴のない女性と比較して、巨大児出産歴がある女性は、糖尿病を有することが多く、その調整後オッズ比は1.44倍(95%信頼区間:1.13-1.83)(年齢、BMI、収縮期血圧、糖尿病の家族歴、1日の歩行時間にて調整)であり有意な関連を認めました。
縦断的解析:巨大児出産歴と5年間の糖尿病発症率
一方、縦断的な検証では、ベースライン調査と5年後調査の両方に参加した女性でベースライン調査にて糖尿病を有していない人に限定して解析が行われました。このため、対象者は7,300名となりました。これらのうち5年間に334名の女性が糖尿病を発症しました。5年間の糖尿病発症率は、出産経験があり、かつ巨大児出産歴のない女性にて4.6%、巨大児出産歴がある女性は6.8%でした。この調整後オッズ比は1.24倍(95%信頼区間:0.80-1.94)(年齢、BMI、収縮期血圧、糖尿病の家族歴、1日の歩行時間にて調整)であり有意な関連を認めませんでした。
まとめ
この研究により、巨大児出産歴のある女性が糖尿病を有するリスクの上昇が示唆されました。縦断的な検証では有意な結果を得られませんでしたが、理由として以下のようなことが推察されます。まず、対象者数・症例数が横断的な検証より少なく統計的検出力が不十分であった可能性があります。また妊娠時に血糖値の上昇があった場合、その後の糖尿病発症は出産後比較的早期に起こることが報告されています。つまり、巨大児出産がありその後の糖尿病リスクの高いと考えられた女性たちは、この研究の対象者となる60歳代では、すでに糖尿病を発症しており縦断的解析の対象者から外れてしまった可能性が考えられました。日常診療において出産歴というのは重要な病歴であり、巨大児出産歴のある患者に対しては糖尿病のリスク上昇について注意を払う必要があるでしょう。確固たる関連の確立にはさらなるエビデンスの蓄積が必要と考えています。