トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >塩分・塩蔵食品と、がん・循環器疾患の関連について
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

塩分・塩蔵食品と、がん・循環器疾患の関連について

- 「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果 -

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研 究を行っています。
1995,98年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五 島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった、45~74才のがんや循環器疾患の既往のない約8万人の方を、2004年まで追 跡した調査結果にもとづいて、塩分・塩蔵食品の摂取量とがん・循環器疾患の発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介しま す。(Am J Clin Nutr. 2010年91巻 456-464ページ

高塩分が高血圧を招き、循環器疾患(脳卒中・心筋梗塞)のリスクを高くすることや、塩分や塩蔵食品が胃がんのリスクを高くすることはよく知られてい ます。多目的コホート研究では、これまでに、食塩摂取量の多い男性で胃がんのリスクが高く、また塩分濃度の高いいくら、塩辛、練りうになどをよく食べるグ ループで男女とも胃がんリスクが高いという結果を報告しました。

高塩分や塩蔵食品の摂取は日本人の食生活の特色の1つに数えられます。そうした食習慣が、がんの発生や循環器疾患の発症に対してどれくらい影響して いるのか、即ちその対策によってどのくらいの効果が期待できるのかは、まだはっきりとわかっているわけではありません。

今回の研究では、追跡開始時におこなった食習慣についての詳しいアンケート調査(調理や食卓での調味、みそ汁の好みなども含む)の結果を用いて、ナ トリウム(塩分の総量にあたるもの)と個々の塩蔵食品(塩蔵魚類または干魚、たらこ等の魚卵)の1日当たりの摂取量を少ない順に5グループに分け、その後 に生じた何らかのがん・循環器疾患の発生率を比べました。その結果、塩蔵食品の摂取量が多いグループでがんのリスクが高くなり、ナトリウム摂取ではがんリ スクは高くなりませんでした。逆に、ナトリウム摂取量の多いグループで循環器疾患のリスクが高くなり、塩蔵食品摂取では循環器疾患リスクは高くなりません でした。

塩分は循環器疾患リスク、塩蔵食品はがんにリスク

追跡期間中に4,476人が何らかのがんと診断され、また2,066人に循環器疾患(脳卒中・心筋梗塞)の発症が確認されました。ナトリウムと個々 の塩蔵食品の摂取量それぞれのランキングによる、全がん、循環器疾患の相対危険度を比較しました。その際、性別、年齢、喫煙、肥満など、がんや循環器疾患 のリスクを高めることがわかっている別の要因の影響を取り除きました。
その結果、塩蔵魚類または干魚、たらこ等の魚卵といった塩蔵食品の高摂取に よって何らかのがんのリスクが高くなり、ナトリウム摂取によるリスク上昇は見られませんでした。逆に、ナトリウムの高摂取によって循環器疾患発症リスクが 高くなり、塩蔵食品摂取によるリスク上昇は見られませんでした(図1)。
図1. ナトリウム,塩蔵食品摂取量と全がん・循環器疾患リスク

胃がん・脳卒中に対しても同様の結果

塩分・塩蔵食品との関係が知られている胃がんと脳卒中についても同様に調べました。やはり全体の結果と同様に、ナトリウムの高摂取による脳卒中リス ク増加が見られた一方、胃がんのリスク増加は見られませんでした。反対に、塩蔵食品摂取で胃がんのリスク上昇が見られ(塩魚、魚卵摂取では大腸がんのリス クも上昇)、脳卒中のリスクは増加しませんでした(塩魚ではむしろ心筋梗塞のリスクが低下)(図2)。
図2. ナトリウム,塩蔵食品摂取量と胃がん・脳卒中リスク

塩分とがん・循環器疾患

塩分そのものは血圧を上げることから脳卒中など循環器疾患のリスクになることが良く知られています。その一方で、塩蔵食品は、魚介類にはn-3 PUFA(EPA, DHAなど)、野菜類にはカリウム・抗酸化物質など、循環器疾患に予防的な栄養素も含んでいます。調味の食塩など塩蔵食品以外の塩分も控えることで血圧が 下がり、循環器疾患に予防的であることが示唆されます。
一方、がん全体を見ると、塩魚や干物・たらこなどの塩蔵食品がリスクであることが示されま した。塩分濃度の比較的高い食品であるというだけでなく、塩蔵の過程で生成されるニトロソ化合物が日本人に最も多い胃がんのリスクを上げたことによるもの と示唆されます。

研究の長所と短所

今回の日本人を対象とした研究では、欧米より塩分全体の摂取量が多いうえ、塩蔵食品以外(調味など)からの塩分の割合も高いので、"食塩"と"塩蔵 食品"を分けて評価できました。しかし、正確な塩分(特に調味での使用量)は測定が難しいものです。測定の誤差が、本来はあるはずの塩分とがん(胃がん) の関連を隠した可能性もあります。その場合でも循環器疾患(脳卒中)に対するリスクより小さいとは言えるでしょう。

塩蔵食品は控えめに、調味もうす味に

塩蔵食品を控えるほか、食卓や調味でのしょうゆや食塩、味付けを控えることにより、がん・循環器疾患のどちらも予防することが期待できます。塩蔵 魚・干物は、がんと循環器疾患で異なる結果でしたが、魚は心筋梗塞の予防になることが分かっていますから、塩蔵や干物の魚類を食べることが多い人はうす味 や生鮮ものを選択されると良いのではないでしょうか。(https://epi.ncc.go.jp/can_prev/93/7957.html

※摂取量の推定値について: この研究で用いられている食物摂取頻度アンケート調査は、摂取の相対的なランキングには適していますが、それだけで実際の摂取量を正確に推定するのは難し いのが実情です。また、年齢や時代・居住地域などが限定された対象集団の値を、全ての日本人に当てはめることも適当とは言えません。ここで示す摂取量は、 あくまでも参考値としてご理解ください。

上に戻る