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多目的コホート研究(JPHC Study)

食事の酸塩基バランスと糖尿病との関連について

—「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告—

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2015年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、ベースラインおよび研究開始から5年後に行った調査時に糖尿病やがん、循環器疾患になっていなかった男女約6万名を、5年間追跡した調査結果にもとづいて、食事の酸塩基バランスと糖尿病発症との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Nutr.2016 May;146(5):1076-83)。

果物、野菜、豆類などのアルカリ食品が少なく、肉、魚などの酸性食品を多く含む食事によって血液が酸性に傾いた状態(代謝性アシドーシス)になり、そのことが糖代謝を障害するのではないかと考えられています。本研究では、食事の酸塩基バランスを表す、潜在的腎臓酸負荷(PRALスコア)と推定内因性酸産生量(NEAPスコア)を計算し、これらのスコアと糖尿病発症との関連を検討しました。

 

食事性酸塩基負荷の算出方法  

PRAL(mEq/d)=0.4888×たんぱく質(g/d)+0.0366×リン(mg/d)-0.0205×カリウム(mg/d)-0.0125×カルシウム(mg/d)-0.0263×マグネシウム(mg/d)

NEAP(mEq/d)= =[54.5×たんぱく質(g/d)/カリウム(mEq/d)]-10.2

いずれも値が高いほうが、食事の酸性度が高いことを意味します。

 

男性で食事の酸性度スコアが高いほど糖尿病発症のリスクが上昇

研究開始から5年後に行った質問紙調査のデータを用いて、たんぱく質、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムの摂取量を推定し、PRALおよびNEAPを算出しました。このスコアにより4つのグループに分類し、その後5年間の糖尿病発症(男性691人、女性500人)との関連を調べました。糖尿病の発症は、研究開始10年後に行った自記式調査で、上記追跡期間内に糖尿病と診断されたことがある場合としました。その結果、男性では食事の酸性度が高いほど糖尿病発症のリスクが上昇する傾向が認められ、スコアが最も低い群に比べ最も高い群では糖尿病のリスクが約25%増加していました(図)。一方、女性では酸塩基バランススコアと糖尿病発症との関連はみられませんでした。

 

 

食事の酸塩基バランスと糖尿病発症に関する先行研究は欧米の2報があります。米国の前向き研究では、本研究と同様、食事の酸性度が高いほど糖尿病発症のリスクが上昇することが報告されています。一方、高齢者(70~71歳)におけるスウェーデンの研究では、食事の酸塩基バランスと糖尿病発症との関連は認められませんでした。研究によって結果が異なる理由のひとつに、対象者の年齢の違いが挙げられます。本研究で、50歳以上と50歳以下に分けて解析したところ、50歳以下でのみ関連を認めました。高齢者では高脂血症や高血圧など糖尿病リスクに影響する疾病が存在するため、食事との関連が覆い隠されたのかもしれません。女性では食事の酸塩基バランスと糖尿病との関連は認めませんでした。その理由として、女性は男性に比べて野菜や果物の摂取が多く、平均的に食事の酸性度が低いことが考えられます。

今回、男性において、酸性度の高い食事と糖尿病リスクの増加とが関連していました。野菜、果物、豆類といった血液のアルカリ度を高める食品を多く摂取することは糖尿病予防に役立つかもしれません。しかし、疫学研究からのエビデンスなど科学的根拠はまだ十分とはいえないため、さらなる研究が必要です。

 

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