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現在までの成果

異物代謝に関連する遺伝子と胃がんリスクについて

—「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告—

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2014年現在)管内にお住まいだった方々のうち、40~69才の男女約3万7千人の方々を、平成16年(2004年)まで追跡した調査結果に基づいて、異物代謝に関連する遺伝子シトクロムP450 1A1(Cytochrome P450 1A1:CYP1A1)、グルタチオン-S-転移酵素(glutathione S-transferases M1, T1:GSTM1, GSTT1)と胃がんリスクとの関連について調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Int J Cancer.2016 Aug 15;139(4):759-68)

国際がん研究機関によると、喫煙(タバコ)は人に対して発がん作用があると報告されています。タバコには多環芳香族炭化水素、N-ニトロソアミン、ヘテロサイクリックアミンといった様々な種類の化学物質が含まれています。

多くの化学物質は酵素によって解毒されますが、その過程で活性化されます。異物を代謝する酵素である、シトクロムP450(CYP)として代表的なCYP1A1は化学物質を活性化させますが、活性化された化学物質はグルタチオン-S-転移酵素として代表的なGSTM1、GSTT1の働きにより解毒されます。したがって、化学物質による発がん過程ではこれらの異物を代謝する酵素の働きによる活性化と解毒のバランスが重要です。

最近報告された研究では、GSTM1、GSTT1遺伝子型の欠損タイプ(解毒作用が存在しないタイプ)は胃がんリスクと関連すると報告されましたが、CYP1A1(rs4646903とrs1048943)遺伝子タイプは胃がんリスクと関連しないと報告されました。しかし、今までの研究では遺伝子タイプ同士、喫煙といった生活習慣と遺伝子タイプとを組み合わせた検討はあまりされていませんでした。

そこで、異物を代謝する酵素に関連する遺伝子:CYP1A1、GSTM1、GSTT1遺伝子タイプと胃がんリスクとの関連を調べました。さらに、胃がんにおける遺伝子タイプ同士、喫煙と遺伝子タイプの組み合わせを考慮し、単純にリスクを足し合わせた以上の効果があるかどうかについても検討しました。

 

保存血液を用いた、コホート内症例対照研究

多目的コホート研究の対象者約10万人のうち、研究開始時に健康診査の機会(1990年から1995年まで)を利用して、男性約13467人、女性約23278人から研究目的で血液を提供していただきました。2004年末までの追跡期間中に発生した胃がんのうち、関連データが不足していない胃がん457人(男性307人、女性150人)の1例ずつに対し、胃がんにならなかった方から年齢・性別・居住地域・採血時の条件をマッチさせた1人を無作為に選んで対照グループに設定し、合計914人を今回の研究の分析対象としました。

まず、それぞれの遺伝子タイプの胃がんリスクを検討しました。その後、アンケートから算出した喫煙指数:『(1日の喫煙本数÷20本)×喫煙年数』と遺伝子タイプを組み合わせて考慮することで、単純にリスクを足し合わせた以上の効果があるかどうかを検討しました。分析にあたっては、胃がんに関連する他の要因(胃がんの家族歴、喫煙、飲酒、肥満指数、総エネルギー摂取、ヘリコバクター・ピロリ感染、胃の萎縮、食塩・高塩分食摂取、糖尿病歴)のグループによる偏りが結果に影響しないように、統計学的に調整を行いました。

 

CYP1A1(rs4646422)遺伝子タイプは胃がんリスクと関連する

分析の結果、CYP1A1:GG遺伝子型(変異のない遺伝子型)タイプと比較してA遺伝子(変異のある遺伝子)を保有するタイプ(GA+AA)で約1.7倍胃がんリスクが高いことが分かりました。その他に、GSTM1、GSTT1について関連は見られませんでした(図1)。

       

喫煙指数と遺伝子タイプを組み合わせたところ、CYP1A1:GG遺伝子型(変異のない遺伝子型)を有する非喫煙者と比較し、CYP1A1:A遺伝子(変異のある遺伝子)を有し、喫煙指数が30以上の人で約2.1倍胃がんリスクが高いことが分かりました(図2)。しかしながら、喫煙指数と遺伝子タイプを組み合わせた胃がんリスクにおいて単純に足し合わせた以上の効果を認めませんでした。

   

 

この研究について

CYP1A1:GG遺伝子型(変異のない遺伝子型)と比較して、A遺伝子(変異のある遺伝子)を保有するタイプ(GA+AA)で胃がんのリスクが上昇することが認められました。今回の結果より、CYP1A1(rs4646422)遺伝子タイプが胃の発がんに関与する可能性が示唆されました。 また、CYP1A1:A遺伝子(変異のある遺伝子)を有する非喫煙者でも胃がんリスクが高いことを認めました。喫煙以外の原因として、環境中に含まれる他の化学物質などによる影響があるのかもしれません。

研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針について審査を受けてから開始します。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。多目的コホート研究では、ホームページに多層的オミックス技術を用いる研究計画のご案内や遺伝情報に関する詳細も掲載しています。 

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