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現在までの成果

健診成績に基づく心筋梗塞および脳梗塞の発症確率予測モデル開発

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

私たちは、健診成績や生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。この多目的コホート研究では、平成2年(1990年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部(以上、コホートI)、平成5年(1993年)に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古(以上、コホートII)の9保健所(呼称は平成28年現在)管内にお住まいだった方々にアンケート調査への回答と血液の提供をお願いし、その後、心筋梗塞や脳卒中の発症状況について追跡調査を実施してきました。今回、コホートII参加者で解析に必要なデータの揃った15,672人の平均16年間の追跡データを用いて、研究開始時の健診成績・生活習慣からその後10年間の心筋梗塞および脳梗塞の発症確率予測モデルを開発しました。そして、開発した予測モデルの性能を、コホートI参加者で必要なデータのある11,598人において検証し、一連の結果を専門誌に論文発表しましたので、ご紹介します(Circulation Journal 2016年4月15日オンライン版早期公開)。

 

リスク予測の目的  

将来、病気になる確率(リスク)を予測する目的は何でしょうか?そのまま様子を見て、予測通りになったと感心することではありません。リスク低減のために可能な対策を行い、むしろ予測通りにならないようにすることと言えます。

今回、中年期のある時点の健診成績や生活習慣を用いて、その後10年間で心筋梗塞および脳梗塞がどのくらいの確率で発症リスク予測モデルを作成しました。その目的は、健診成績や生活習慣の改善を行うことでどの程度リスク低減できるかシミュレーションを行い、実行可能な対策を考え、それらの疾患の予防に役立てることです。 

 

予測モデルの作成について

心筋梗塞や脳梗塞の原因には、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などがあることがこれまでの疫学研究の結果から分かっています。こうしたリスク因子の組み合わせから、その人が将来、心筋梗塞(冠動脈疾患)あるいは脳梗塞をどのくらいの確率で発症するかのような予測モデル(推定式)の開発に関する研究が世界各地で進められています。心筋梗塞については我が国でも一都市住民での予測モデルなどが存在しています。しかし、開発された予測モデルを別の集団に適用できるかどうかという外的妥当性の検証は今まで行われてきていませんでした。JPHC研究は、全国複数の地域住民に対して標準化された方法でベースライン調査を実施し、その後の疾患発症の悉皆的な追跡調査を行ってきていることを特長としていますが、ベースライン調査の時期が異なる2つの集団(コホートIとコホートII)を調査対象としています。そこで今回、JPHC研究のコホートIIにおいてリスク予測モデルを開発し、別の集団であるコホートIにおいて外的妥当性を検証しました。また本研究では、心筋梗塞発症リスクの正確な予測に必要不可欠と考えられている善玉(HDL)コレステロールの評価を、悪玉コレステロール(ここではLDLコレステロールを含むnon-HDLコレステロールを悪玉コレステロールと呼びます。)に加え実施していることも特徴です。私たちは、同様の方法で、脳梗塞の発症リスク予測モデルの開発と検証も行ました。

 

リスク予測モデル作成の方法

はじめに、リスクモデル開発に必要なデータが揃い、心血管疾患既往歴のないコホートIIの15,672人を対象として解析を行いました。平均約16年の追跡期間中に観察された192例の心筋梗塞と552例の脳梗塞発症について、研究開始時の健診成績や生活習慣の組み合わせから、統計学的な方法でリスク予測に有用な変数を選択しました。その結果、表1に示した8つの変数が心筋梗塞発症予測に必要十分な変数として選択されました。これらのうち、脳梗塞の発症予測に関係する変数はnon-HDLコレステロールが含まれないこと以外は心筋梗塞とほぼ共通でした。また、作成した予測モデルの性能は十分高く、日本人の一般集団に対して適用することも可能であることが確認されました。

 

表1.心筋梗塞および脳梗塞発症リスク予測に必要な変数(non-HDLコレステロールは心筋梗塞のみ)

性別

年齢

現在喫煙

降圧薬の有無

収縮期血圧

糖尿病の有無

HDLコレステロール

non-HDLコレステロール

 

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今回の研究結果の利用方法 

ご自身の健診結果から心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを予測して利用し、禁煙あるいはタバコを吸わないといった行動の変化や、血圧・脂質・血糖値などの検査成績改善の効果を実感したり、シミュレーションして生活習慣の変容を通した心血管疾患予防に役立てて頂けるものと思います。

注意点としては、降圧薬を内服している場合、ベースライン時の血圧値が良好にコントロールされているような場合でも、降圧薬を服用していない場合よりも高い発症リスクが推定される場合もあります。このことは、降圧薬の効果を否定するものでは決してありません。なぜならば降圧薬が心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを低下させることは最も信頼性の高い無作為化比較試験によって証明されているからです。現在降圧薬を服用中の方は主治医の指示にしたがって、その治療を継続することが重要です。そして、さらなるリスクの低減のため、より健康的な生活習慣の維持やその他の健診結果の改善・悪化の防止に心がけて頂きたいと思います。

ところで以前、私たちは同様の方法を使って、10年間の脳卒中発症リスクを予測するシステムを公表しました。脳卒中には脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血の3つの病態があり、そのうち脳梗塞は動脈硬化との関係が強く、予防方法に心筋梗塞と共通点があります。そこで今回、脳梗塞と心筋梗塞の発症リスク予測モデルを作成いたしました。作成した脳梗塞発症リスク予測モデルには、血圧、糖尿病、喫煙など、以前発表した脳卒中のモデルとほとんど同じ変数が含まれていますが、肥満度(body mass index)の代わりに、動脈硬化に関係するHDLコレステロールが入っている点が異なります。肥満度の値そのものは発症リスクの予測には有用ではなかったということですが、その理由として、肥満度は血圧やHDLコレステロールなど他の変数を介して発症リスクに影響するからだろうと推測しています。

 

最後に

一般的な健診成績から、十分な予測性能を有した心筋梗塞ならびに脳梗塞発症リスク予測モデルを開発し、日本人の一般集団に適用可能であることも検証しました。このリスクモデルを活用した健康づくり、予防医療の推進が望まれます。 

 

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