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多目的コホート研究(JPHC Study)

イソフラボン摂取と肺がんとの関連について

- 「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果 -

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を 行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県 中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった、45~74才の男女約7万6千人の方々を、平成17年 (2005年)まで追跡した調査結果にもとづいて、イソフラボンの摂取量と肺がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介しま す。 (American Journal of Clinical Nutrition 2010年91巻722-728ページ

肺がんの最大の原因は喫煙ですが、女性では生殖関連要因やホルモン剤使用との関連が報告されています。イソフラ ボンは化学構造が女性ホルモン(エストロゲン)と似ているため、肺がんの発生についても影響を与えるかもしれません。大豆食品やイソフラボンの摂取により 肺がんのリスクが低下するかどうかについては、数多くの症例対照研究がアジアから報告されています。性別、喫煙状況別、肺がんのタイプ別に検討した結果は 一致していないものの、イソフラボン摂取によって何らかの肺がんリスクが下がることを示唆するような傾向がみられます。一方、コホート研究については、ア ジアの女性を対象に行われた1件しかありません。このシンガポールの女性を対象としたコホート研究では、たばこを吸わないグループでイソフラボンの肺がん に対する予防的な関連性を認めています。喫煙者ではたばこの影響があまりに大きいため、イソフラボンの肺がん予防効果があるとしても隠されてしまった可能 性があります。
そこで、日本人が対象である多目的コホート研究で、イソフラボン摂取と肺がんとの関連についての検討をおこないました。
今 回の研究では、食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、イソフラボン(ゲニステイン)の1日当たりの摂取量を算出してグループ分けを行い、 その後の肺がん発生率を比べました。その結果、イソフラボンの摂取量が多い非喫煙男性で、肺がんの危険度(リスク)が低くなる可能性が示されました。ま た、女性でも、統計学的に有意な結果ではなかったものの、同様の可能性が示されました。

喫煙経験のない男性ではイソフラボン摂取が多いほど肺がんになりにくい


調査開始時のイソフラボン摂取量により、男女別にそれぞれ4つのグループに分けて、その後の肺がんの発生率を比較しました。調査開始から平 均で約11年の追跡期間中に、男性3万6千人のうち481人、女性約4万人のうち178人が肺がんになりました。たばこの肺がんへの影響は非常に大きいた め統計学的手法を用いて調整をおこなうだけでなく、喫煙習慣別の検討もおこないました(図)。

図.喫煙習慣別にみたイソフラボン摂取と肺がん罹患

すると、男性では、全体でみるとイソフラボン摂取と肺がんとの関連はみられませんでした。しかし、喫煙習慣別の検討では、喫煙経験のない集団におい て、イソフラボン摂取により肺がんリスクが低下していました。イソフラボン摂取量が一番少ないグループと比べると一番多いグループでは、肺がんの発生率が 57%低くなっていました(傾向性の検定P=0.024)。
女性では、全体でみても喫煙経験のない集団に限ってみても、肺がんリスクの推定値はイ ソフラボン摂取が増えるのにしたがい低下している傾向がみられましたが、これは統計学的に有意な結果ではありませんでした。

この研究について

肺がん細胞をもちいた実験や動物実験などでイソフラボンが予防的に働くことが報告されているものの、そのメカニズムについては今のところよく分かっ ていません。イソフラボンが女性ホルモンの働きに影響を与えている可能性もありますし、女性ホルモンとは関係のない別のメカニズムで作用している可能性も 考えられます。
今回の研究では、イソフラボン摂取による肺がんリスクの低下は喫煙経験のない男性でははっきりしていましたが、女性でも同様の傾向 がみられましたが、統計学的に有意なものではありませんでした。その理由として、たばこを吸わない女性での受動喫煙の影響や、肺がんの症例数が少ないこと などにより関連性をとらえきれなかった可能性が考えられます。
イソフラボンの一種であるゲニステインには、上皮増殖因子受容体(EGFR)キナー ゼの活性を抑える働きがあるという報告があります。EGFR遺伝子変異のみられる肺がん細胞で、特にイソフラボンの予防効果が現れるのではないかという研 究結果もあります。今後、イソフラボン摂取と肺がんとの関わりを、EGFR遺伝子変異の状況も含めて探求することが、メカニズムの解明にも貢献することに なるでしょう。

※摂取量の推定値について:
今回の研究では、対象者に実施された食物摂取頻度アンケート調査から、各グループのイソフラボン(ゲニステイン)の一日摂取量を算出すると、男女とも最も 少ないグループの平均値は9mg、最も多いグループの平均値は48mgでした。(イソフラボン約12mgは豆腐で40g・納豆で1/3パックに換算されま す)。それらの値は、対象者の一部に実施されたより直接的な食事記録調査から算出された値と対比すると、男性で7~24%、女性で25~45%過大評価されていま した。(赤字は2010年02月17日に訂正)
コホート研究などで用いられる食物摂取頻度アンケート調査は、摂取量による相対的なグループ分けには適しますが、それだけで実際の摂取量を正確に推定する のは難しく、また年齢や時代・居住地域などが限定された対象集団の値を一般化することは適当とは言えませんので、ここに示した摂取量はあくまで参考値にす ぎません。

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