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多目的コホート研究(JPHC Study)

心筋梗塞と脳卒中の死亡率と発症率の関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の8保健所(呼称は2010年現在)管内にお住まいだった方々の内、40~59歳の男女約9.5万人を、2009年(コホートⅠ)あるいは、2010年(コホートⅡ)まで平均18.5年間の追跡を行いました。

本研究では、各地域の心筋梗塞と脳卒中の死亡率と発症率を算出し、生態学的研究※の手法を用い、死亡率と発症率との関連について検討を行いました。この研究結果を国際学術専門誌に発表しましたので紹介します(Int J Caediol.2016 Nov 1;222:281-286)。

地域の健康課題を考える上で、疾患発症率は非常に重要な健康指標ですが、わが国では心筋梗塞や脳卒中の発症に関する公的な情報はありません。本研究では、対象地域の主要な医療機関に協力研究機関として協力していただき、国際的にも標準化された方法で、研究者による発症登録を行いました。また、人口動態統計に基づく死亡率は毎年報告されてはいるものの、発症率とどのように関連があるのか、これまで疫学的な検討はあまりされていませんでした。

※集団ごとに性別や年齢階級別に死亡率や発症率を求め、地域間の関連を分析する手法

 

 

脳卒中の発症率は心筋梗塞よりも男性3.7倍、女性9.6倍高い

追跡期間中に、967人の新規心筋梗塞発症と637人の心筋梗塞死亡が確認されました。また、新規脳卒中発症が4613人、脳卒中死亡が1292人でした。 図1に心筋梗塞と脳卒中の年齢調整済み発症率と死亡率をそれぞれ男女別に示しました。昭和60年の日本の人口構成を用いて、率に及ぼす年齢構成の影響を調整しました。心筋梗塞についてその発症率は死亡率に比べて男性で1.7倍、女性1.4倍でした。脳卒中についてはそれぞれ、3.7倍、4.3倍でした。心筋梗塞と脳卒中の発症率を比べたところ、脳卒中の発症率は、心筋梗塞に比べて、男性で3.7倍、女性では9.6倍高く、我が国の循環器疾患予防は、脳卒中対策が重要であることを示唆していると考えられます。

 

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  図1 心筋梗塞と脳卒中の年齢調整死亡率および発症率

 

 

心筋梗塞および脳卒中の発症率と死亡率との相関分析

次に、対象8地域の心筋梗塞および脳卒中の発症率と死亡率との関連を調べました(図2)。 発症率と死亡率の相関分析を行った結果、スペアマンの相関係数はA:心筋梗塞男性0.33 (P=0.42)、B:心筋梗塞女性0.50 (P=0.21)、C:脳卒中男性0.76 (P=0.028)、D:脳卒中女性0.71 (P=0.047)でした。集団の数(n=8)が小さいために統計学的に有意になっていないところもありますが、脳卒中に関してはその関連が有意であり、明らかに死亡率が高い地域ほど発症率も高いことが確認されました。

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図2 心筋梗塞および脳卒中の死亡率と発症率の相関関係

(心筋梗塞A:男性、B:女性、脳卒中C:男性、D:女性)

 

 

心筋梗塞および脳卒中の発症率の推計

心筋梗塞や脳卒中の発症率は一般的には測定できない指標です。仮に、死亡率と発症率との間に関連があるのであれば、死亡率から発症率を予測することはできないか分析を行いました。年齢階級別の死亡率、年齢階級、地域から、年齢階級別の発症率を予測する式を作成したところ、十分に死亡率から発症率を予測することが可能であることが分かりました。  さらに、発症率が死亡率の何倍であるか検討を行ったところ、以下の表のようになりました。

 

表 心筋梗塞と脳卒中の発症率/死亡率比と95%信頼区間

 

発症率/死亡率比

男性

女性

心筋梗塞

2.06 (1.56-2.73)

1.41 (1.01-1.95)

脳卒中

3.99 (3.32-4.80)

4.44 (3.73-5.29)

 

 この結果、心筋梗塞の発症率は、男性で死亡率の2倍、女性では1.4倍、また脳卒中の発症率は男女とも死亡率の約4倍と見積もることができます。

 

 

まとめ

本研究から、人口動態統計に基づいた死亡率から地域の心筋梗塞や脳卒中の発症率を見積もることが可能であることが分かりました。したがって、心筋梗塞や脳卒中の死亡率の高い地域は、より積極的に循環器疾患対策を推進していくことが重要であると考えられます。 なお、本研究の限界として、本研究の発症調査は対象地域の協力医療機関に限られているため、その他の医療機関で発症が確認されたケースは把握できておらず、登録が漏れている可能性があります。また、本研究地域には都市部が含まれていないこと、あるいは発症率と死亡率の比は、死亡統計を基準としたものであり、真の心筋梗塞・脳卒中死亡との比ではないことなど、数値の解釈には注意が必要と考えています。

 

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