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多目的コホート研究(JPHC Study)

社会的な支えとメタボリック症候群との関係:宴会効果?

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。今回の研究では、平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の5保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約4万4,000人の方々のうち、循環器疾患・がんの既往がなく、社会的な支えの質問に答えかつ、メタボリックシンドロームの構成因子を測定した12,537の男女を対象に、社会的な支え(ソーシャルサポート)とメタボリックシンドロームとの関係を調べた結果を論文発表しましたので紹介します。(J Epidemiol Community Health. 2011年65巻71-77ページ)

欧米や日本における研究からは、社会的な支えが少ない人では、社会的な支えの多い人に比べて、心筋梗塞の発症・死亡のリスクや、脳卒中の死亡リスクが高いことが報告されています。メタボリックシンドロームは肥満、低HDLコレステロール、高トリグリセライド、高血圧、高血糖の循環器危険因子から構成されていますが、近年の欧米における研究では、社会的な支えが少ないとメタボリックシンドロームやその構成因子の有病率が上昇するとの報告がありました。その理由としては、社会的な支えが少ない人は話し相手が少ないため、不安や悩みを誰にも打ち明けられずに一人で問題を抱えてしまい、そのことが健康行動やストレス等を介して循環器疾患、メタボリックシンドロームおよびその構成因子などの出現に影響すると考えられています。しかし、日本人では社会的な支えとメタボリックシンドロームやその構成因子との関連を調べた報告はありませんでした。
今回の研究では、追跡開始時にアンケートで、①心が落ち着き安心できる人の有無(なし:0点、あり:1点)、②週1回以上話す友人の人数(なし:0点、1-3人:1点、4人以上:2点)、③行動や考えに賛成して支持してくれる人の有無(なし:0点、あり:1点)、④秘密を打ち明けることのできる人の有無(なし:0点、あり:1点)を社会的な支えの指標として用いました。回答の点数を足した合計点数が5点である者を社会的な支えが「最も多い」、4点を「多い」、2-3点を「ふつう」、1点未満を「少ない」としました。
メタボリックシンドロームの有無は、代表的な診断基準である米国 (AHA/NHLBI) および国際糖尿病連合(IDF)の診断基準(日本も同様)を用いて判定を行いました。
社会的な支えが少ない男性ではメタボリックシンドロームが少ない
日本人男性では、欧米人とは異なり、社会的な支えの少ない男性では、社会的な支えの多い男性に比べて、メタボリックシンドロームの有病率が、0.75(95%信頼区間:0.58-0.97)倍と低いことがわかりました(図1)。女性ではその差は認められませんでした。また、社会的な支えの少ない男性では肥満者の割合が低く(図2)、多量飲酒や付き合いで多く飲酒する割合(図3)や脂肪摂取量が少ない結果となりました。(図4)
  
宴会効果か?
社会的な支えが少ない男性では、社会的な支えが多い男性に比べて、メタボリックシンドロームの有病率が低いことが明らかになりました。
過去の欧米における研究では、社会的な支えの低さはメタボリックシンドロームやその構成因子の頻度を上昇させることが示されており、今回、日本人で認められた結果とは異なります。欧米人と日本人との間に差異が生じる原因の一つとして、社会的な支えが多い日本人男性では、宴会・飲み会などの影響で飲酒や脂肪摂取の機会が多くなり、その結果、肥満やメタボリックシンドロームの割合が高くなるという、日本文化特有の現象、すなわち、宴会効果の存在を示唆しています。宴会・飲み会は、特に中年期男性において社会的な支えの源であり、ストレスの発散の場である一方で、お酒や脂肪の取りすぎ、肥満、メタボリックシンドロームには気をつける必要があるといえます。
今後の課題
今回の研究は、横断研究でありかつ対象者が住民検診受診者に限られているため、因果関係の確定には更なる検討が必要です。今後、メタボリックシンドロームの発症を追跡調査したコホート研究での再検討を行う必要があります。
また、これまでの多目的コホート研究では、今回の結果とは逆に、社会的な支えが少ないと脳卒中死亡のリスクが高いことが示されています。これらのことから、社会的な支えは多くても少なくても、それぞれ異なるメカニズムを介して健康悪化につながると考えられ、人間関係が健康に与える影響の複雑さを示唆しています。人間関係の健康影響に関しては、さらなる詳細な検討が必要と考えられます。

欧米や日本における研究からは、社会的な支えが少ない人では、社会的な支えの多い人に比べて、心筋梗塞の発症・死亡のリスクや、脳卒中の死亡リスクが高いことが報告されています。メタボリックシンドロームは肥満、低HDLコレステロール、高トリグリセライド、高血圧、高血糖の循環器危険因子から構成されていますが、近年の欧米における研究では、社会的な支えが少ないとメタボリックシンドロームやその構成因子の有病率が上昇するとの報告がありました。その理由としては、社会的な支えが少ない人は話し相手が少ないため、不安や悩みを誰にも打ち明けられずに一人で問題を抱えてしまい、そのことが健康行動やストレス等を介して循環器疾患、メタボリックシンドロームおよびその構成因子などの出現に影響すると考えられています。しかし、日本人では社会的な支えとメタボリックシンドロームやその構成因子との関連を調べた報告はありませんでした。

今回の研究では、追跡開始時にアンケートで、①心が落ち着き安心できる人の有無(なし:0点、あり:1点)、②週1回以上話す友人の人数(なし:0点、1-3人:1点、4人以上:2点)、③行動や考えに賛成して支持してくれる人の有無(なし:0点、あり:1点)、④秘密を打ち明けることのできる人の有無(なし:0点、あり:1点)を社会的な支えの指標として用いました。回答の点数を足した合計点数が5点である者を社会的な支えが「最も多い」、4点を「多い」、2-3点を「ふつう」、1点未満を「少ない」としました。

メタボリックシンドロームの有無は、代表的な診断基準である米国 (AHA/NHLBI) および国際糖尿病連合(IDF)の診断基準(日本も同様)を用いて判定を行いました。

社会的な支えが少ない男性ではメタボリックシンドロームが少ない

日本人男性では、欧米人とは異なり、社会的な支えの少ない男性では、社会的な支えの多い男性に比べて、メタボリックシンドロームの有病率が、0.75(95%信頼区間:0.58-0.97)倍と低いことがわかりました(図1)。

図1.社会的支えの度合いとメタボリック症候群

女性ではその差は認められませんでした。また、社会的な支えの少ない男性では肥満者の割合が低く(図2)、多量飲酒や付き合いで多く飲酒する割合(図3)や脂肪摂取量が少ない結果となりました。(図4)

図2.社会的支えの度合いと肥満
図3.社会的支えの度合いと飲酒状況(男性) 図4.社会的支えの度合いと脂肪摂取量(男性) 

宴会効果か?

社会的な支えが少ない男性では、社会的な支えが多い男性に比べて、メタボリックシンドロームの有病率が低いことが明らかになりました。

過去の欧米における研究では、社会的な支えの低さはメタボリックシンドロームやその構成因子の頻度を上昇させることが示されており、今回、日本人で認められた結果とは異なります。欧米人と日本人との間に差異が生じる原因の一つとして、社会的な支えが多い日本人男性では、宴会・飲み会などの影響で飲酒や脂肪摂取の機会が多くなり、その結果、肥満やメタボリックシンドロームの割合が高くなるという、日本文化特有の現象、すなわち、宴会効果の存在を示唆しています。宴会・飲み会は、特に中年期男性において社会的な支えの源であり、ストレスの発散の場である一方で、お酒や脂肪の取りすぎ、肥満、メタボリックシンドロームには気をつける必要があるといえます。

今後の課題

今回の研究は、横断研究でありかつ対象者が住民検診受診者に限られているため、因果関係の確定には更なる検討が必要です。今後、メタボリックシンドロームの発症を追跡調査したコホート研究での再検討を行う必要があります。

また、これまでの多目的コホート研究では、今回の結果とは逆に、社会的な支えが少ないと脳卒中死亡のリスクが高いことが示されています。これらのことから、社会的な支えは多くても少なくても、それぞれ異なるメカニズムを介して健康悪化につながると考えられ、人間関係が健康に与える影響の複雑さを示唆しています。人間関係の健康影響に関しては、さらなる詳細な検討が必要と考えられます。

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