多目的コホート研究(JPHC Study)
女性関連要因と甲状腺がん罹患との関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2016年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の女性約5万5千人の方々を平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、女性関連要因と甲状腺がん罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Eur J Cancer Prev, 2017)
甲状腺がんは女性に多く、また、若い年代での罹患が比較的多いことから、生理や出産歴など女性特有の何らかの因子が関連している可能性が考えられています。動物実験では、女性ホルモンであるエストロゲンが、甲状腺がんの増殖を促がすことが報告されていますが、ヒトを対象とした疫学研究からは一致した報告が得られていません。そこで、私たちは、研究開始時に行ったアンケート調査の結果を用いて、初経年齢や出産回数などの女性関連要因によるグループ分けを行い、甲状腺がんに罹患するリスクとの関連を評価しました。 今回の研究対象に該当した女性約5万5千人のうち、2012年までの追跡期間中に187人の女性が甲状腺がんに罹患しました。
女性関連要因が甲状腺がんに関連する。
女性全体で解析した時には、女性関連要因と甲状腺がんとの関連は明らかではありませんでしたが、閉経の有無で2つのグループに分けて解析したところ(図)(閉経前症例92例、閉経後症例95例)、閉経前女性では、初経年齢が13歳以下と比べて、16歳以上と高いと、甲状腺がんのリスクが0.58倍と低くなり、1歳増加するごとのリスクは0.83倍、と統計学的に有意に低くなりました。
一方、閉経後女性では、人工的に閉経が行われた女性では、自然に閉経した女性と比べて、閉経後甲状腺がんのリスクが2.34倍と高くなりました。また、閉経年齢が47歳以下と比べて、54歳以上と高いと、統計学的有意ではありませんが、2.26倍リスクが高くなりました。初経から閉経までの期間は、短い(30年以下)女性と比べて、長い(36年以上)女性でリスクが高い傾向がありました。
図 女性関連要因と甲状腺がん
※年齢、地域、BMI、喫煙、受動喫煙、飲酒、野菜・海藻の摂取頻度、緑茶引用頻度、過去1年間の健診受診の有無を調整。 *統計学的に有意(p<0.05)
さらなる研究結果の蓄積が必要
これまでに行われた25の疫学研究を統合解析した結果でも、閉経年齢が高いと甲状腺がんのリスクが高くなるという結果が報告されており、今回の結果は、それらの知見も支持するものでした。閉経年齢が高いこと、初経年齢が早いことは、ともに、女性ホルモンであるエストロゲンにさらされる期間が長いことを間接的に示しており、今回の結果でも、初経から閉経までの期間が長い女性でリスクが高い傾向にあったことは、エストロゲンが甲状腺がんと関連があるという動物実験の結果も支持しています。
また、エストロゲンにさらされることと逆説的にはなりますが、今回の結果同様、外科的治療などで人工的に閉経することで、女性ホルモンの分泌が急激に低下することが甲状腺がんと関連しているという報告もあり、甲状腺がんが女性ホルモンに関連していることを示唆しています。人工的に閉経することで、その後のエストロゲン剤服用と関係するのかもしれませんが、よくわかっていません。さらに、今回の結果では、ホルモン剤服用について、使用したことのある女性のほうが閉経後甲状腺がんのリスクが低くなり、仮説と逆の結果が得られましたが、今回の研究ではホルモン剤の種類や服用した期間について詳細に聞いていないことから、さらなる研究が必要です。
今回の結果から、日本人女性の甲状腺がんにおいても、女性関連要因と関連があることがみとめられましたが、日本人でのエビデンスが少ないこと、メカニズムがよくわかっていないことから、さらなる研究結果の蓄積が必要です。