多目的コホート研究(JPHC Study)
身長と歯の本数との関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの疾患との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。多目的コホート対象地域のうち、1990年に秋田県横手保健所管内にお住まいだった、40-59歳の男女約1万5,000人に対し、生活習慣などについてのアンケート調査にお答えいただきました。また、2005年には同じ対象者に歯科のアンケート調査と歯科健診受診への協力をお願いしました(コホート歯科研究)。その結果、男性706人、女性812人、合計1,518人(平均年齢65.5歳)が歯科研究に参加されました。歯科医院において歯科健診を行い、永久歯が全部で何本残っているかおよび歯周病の状態など、口の健康について調査しました。その結果にもとづいて、今回、身長と歯の本数との関連を調べ、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (Asian Pacific Journal of Health Sciences 2016年3巻81₋88ページ)
身長は大腸がん、乳がん、循環器疾患などと関連があることが報告されています。また、身長と歯科疾患との関連を調査した研究も海外では行われています。身長とむし歯との関連を調べた研究では、身長の低い者ほど乳歯や永久歯のむし歯になるリスクが高いことが報告されています。食生活の乱れや不良な栄養状態が低身長やむし歯のリスクを高めるためと考えられています。さらに、低栄養状態は唾液の量や質を変化させ、むし歯への感受性を高めるとも考えられています。身長と歯周病との関連では、低身長の者ほど歯周病にかかるリスクが高いとの報告があります。感染を起こしやすい者では慢性的な炎症によって身体の成長が遅滞しやすく、感染症である歯周病にも罹患しやすいからと考えられています。しかし、日本において身長と歯の状況との関連を調べた研究はまだありません。
身長の低い人ほど歯の本数が少ない
今回の解析に必要な情報がそろっている対象者1,214人(男性565人、女性649人)において、1990年の多目的コホート研究のアンケート調査より、身長を低い方から男性ではQ1(≤159cm)、Q2(160-162cm)、Q3(163-165cm)Q4(166-169cm)、Q5(≥170cm)、女性ではQ1(≤148cm)、Q2(149-151cm)、Q3(152-154cm)、Q4(155-157cm)、Q5(≥158cm)の5つのグループに分け、歯の本数との関連について解析を行いました。解析にあたっては、年齢、学歴、喫煙、糖尿病の既往、BMI、飲酒、ストレス、出産回数(女性のみ)、甘いお菓子や飲み物の摂取頻度、かかりつけ歯科医の有無、歯の清掃状態による違いが結果に影響しないように配慮しました。
身長と歯の状況との関連をみたところ、男性において身長の一番低いグループでは身長の一番高いグループに比べ約2本歯の本数が少なく、前歯と奥歯でそれぞれ約1本ずつ少ない結果となりました(図)。また、自分の歯が24本未満となるリスクは、統計学的に有意ではありませんでしたが、身長が低いグループほど高くなる傾向にありました。身長と自分の歯が1本もない無歯顎との間には関連はみられませんでした。一方、女性においては身長と歯の状況との間に関連は認められませんでした。
図 身長と歯の本数との関連
この研究について
今回の結果では男性においてのみ身長と歯の本数との関連が認められ、女性においては関連がみられませんでした。その理由は不明ですが、妊娠・出産や女性ホルモンの変化など女性特有の要因が口の健康に影響を及ぼすこと、女性では保健知識や保健行動などが男性に比べ良好なことなどが関与しているためと推測されます。歯を失う2大要因はむし歯と歯周病です。身長や歯科疾患は小さい頃からの食生活や栄養状態などに影響を受けます。口や全身の健康のためには適切な生活習慣をより早期から確立することが必要と考えられます。また、今回の結果は一部の地域の対象者において得られたものです。今後、対象地域と対象者数を増やし、さらなる研究結果の蓄積が必要だと思われます。