多目的コホート研究(JPHC Study)
女性生殖関連要因と膵がん罹患リスクとの関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内にお住まいだった方々のうち、がんや循環器疾患になっていなかった40~69歳の女性4万5千人を、平成23年(2011年)まで追跡した調査結果にもとづいて、女性生殖関連要因と膵がん罹患リスクとの関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Eur J Cancer Prev.2017 Sep;26(5):378-384)。
現在までの研究から、膵がんの予防可能なリスク要因は、喫煙などであることが明らかになっています。一方、膵がん罹患リスクは男性が女性にくらべ1.5倍高く、女性ホルモンであるエストロゲンの膵がん予防効果が示唆されています。しかしながら、これまでの先行研究から一貫した結果は得られていません。また、先行研究は欧米からの報告が大多数であり、アジア人を対象とした研究はほとんどありません。そこで、日本人女性を対象に女性生殖関連要因と膵がん罹患リスクとの関連を検討することを今回の研究の目的としました。
研究開始時に、女性の方を対象として、月経状況、初潮年齢、閉経年齢、出産回数、初産年齢、授乳歴、ホルモン剤使用の有無などに関する質問へご回答いただきました。その質問項目から、8つの生殖関連要因について、その後の膵がん罹患との関連を分析しました。本研究の追跡調査中には、211人の女性に膵がん罹患が確認されました。
ホルモン剤を使用したことのあるグループは膵がんリスクが上昇
全体として、月経状況、初潮年齢、閉経年齢、出産回数、初産年齢、初潮から閉経までの期間(生殖可能期間)、授乳の有無ではその後の膵がんとの関連はみられませんでした。一方、ホルモン剤使用の有無について分析したところ、ホルモン剤を使用したことがないグループに比べて、ホルモン剤を使用したことがあるグループでは膵がん罹患リスクに有意な上昇が見られました(ハザード比1.47、95%信頼区間1.00~2.14)(図1)。
さらなる研究が必要
なぜホルモン剤を使用するグループで膵がん罹患のリスクが上がるのかという具体的な機序は明らかになっていません。米国の先行研究からは、ホルモン剤のひとつである経口避妊薬を使用した女性は、使用しなかった女性に比べて膵がんリスクが上がるという報告があるものの、複数の研究結果からは、ホルモン補充療法を伴う子宮摘出手術を受けた女性で膵がんリスクの低下が報告されているなど、ホルモン剤でもその種類によって異なる結果が示唆されています。本研究の質問項目からは、経口避妊薬とホルモン補充療法などを区別することができなかったので、ホルモン剤の定義が先行研究とは異なっていることが、先行研究との結果の違いの理由として考えられます。また、今回は日本人の集団を対象としたことで、人種間の違いなどが原因である可能性も考えられます。ホルモン剤使用と膵がん罹患リスクに関しては、人種の違いやホルモン剤の種類を考慮した更なる研究が必要であると考えられます。