多目的コホート研究(JPHC Study)
喫煙と白血病罹患リスクについて
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2013年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約10万人の方々を平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、喫煙と白血病罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Epidemiol.2017 Jul;27(7):305-310)。
国際がん研究機関(IARC)では、喫煙は急性骨髄白血病の確実なリスクであると報告しています。しかしながら、日本人を対象とする喫煙と白血病罹患リスクとの関係を検証した大規模な研究はほとんど行われていません。
白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)に大きく分類されますが、近年の分類ではCLLは悪性リンパ腫の一種として考えられるようになりました。したがって、本研究では喫煙とAML、ALL、 CML罹患リスクとの関連を検討しました。
たばこを吸うとAMLのリスクが約2倍になる。
調査開始時のアンケート調査で、喫煙習慣の項目についての回答を基にして、たばこを「吸わない」グループ、「やめた」グループ、「吸っている」グループの3つのグループに分けました。さらに、たばこを「吸っている」グループを喫煙指数(パックイヤー:たばこ1箱を20本として、1日当たりの喫煙箱数と喫煙年数を掛けあわせた値)によって2つのグループに分類し、「吸わない」グループ、「やめた」グループと合わせて、全体として4つのグループに分けました。 平均で約18年の追跡期間中に、AML 90人、ALL 19人、CML 28人が確認されました。年齢、居住地域、性別、職業と肥満指数の偏りが結果に影響しないように考慮して、喫煙との関連を検討しました。
結果として、男性では、喫煙指数が30未満のたばこを「吸っている」グループは、たばこを「吸わない」グループと比べてAMLのリスクは上昇していませんでしたが、喫煙指数が30以上のたばこを「吸っている」グループは、AMLのリスクがたばこを「吸わない」グループと比べて2.2倍であり、統計学的に有意にAMLのリスクが上昇していました(図1)(* P<0.05)。
女性におけるAMLやCML、ALLについては、喫煙者や罹患した人の人数が少なく、はっきりしませんでした。
急性骨髄性白血病の予防のために禁煙を
AMLは、他のがんに比べると頻度は低いですが、発生すると治療が難しい病気の一つです。タバコに含まれるベンゼンや放射性物質による発がんを背景に、喫煙がAMLのリスクを上昇させることが海外の研究で示されていました。今回の研究結果から、これまでの国際的評価は日本人においてもあてはまり、喫煙がAMLのリスクの上昇にも関連していることが分かりました。喫煙は多くのがんや循環器・呼吸器疾患などのリスクであることが分かっています。健康寿命延伸のためにもAMLの予防においても禁煙は重要です。