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現在までの成果

アディポネクチン濃度、アディポネクチン遺伝子多型と2型糖尿病罹患との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などとの関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2017年現在)管内にお住まいで、糖尿病の罹患がないことを確認した5年後調査以降の5年間に糖尿病を発症した417人と発症しなかった1197人を対象としてアディポネクチンと2型糖尿病リスクとの関係を調べました。その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介いたします(Diabetes Research and Clinical Practice May 2017, Volume 127, Pages 254–264. )。

※アディポネクチンとは:アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌される物質で、糖尿病・高血圧・動脈硬化などを防ぐ作用があると考えられています。アディポネクチンは、低分子量、中分子量、高分子量の3種類に分けられ、なかでも高分子量アディポネクチンが最も生理活性があり、インスリンという血糖値を下げるホルモンの働きを強くする作用があるとされています。

これまでのコホート研究により、アディポネクチン濃度が高いと2型糖尿病(最も多いタイプの糖尿病)のリスクが低いことが報告されています。高アディポネクチンが糖尿病に予防的だとすると、アディポネクチンの遺伝子に多型(人による遺伝子配列の違い)があるとアディポネクチン濃度に差が生じることや2型糖尿病リスクが変わることが想定されますが、日本人ではその関係は十分に明らかにされていません。そこで、本研究では、これらの関係を、「多目的コホート」のデータを用いて調べました。

 

血中アディポネクチン濃度が高いと糖尿病リスクが低い

まず、血中のアディポネクチン濃度と2型糖尿病リスクがどのような関係にあるのかを調査しました。5年後調査時の保存血漿を用いて、総アディポネクチン濃度、高分子量アディポネクチン濃度を測定し、その後5年間の糖尿病リスクとの関連を検討しました。アディポネクチン濃度を、濃度順に均等に4つのグループに分けて、糖尿病リスクを分析しました。分析にあたっては、糖尿病に関連する他の要因(年齢,性別、居住地域,空腹時間,BMI,喫煙歴,飲酒歴,身体活動、降圧薬の服用)のグループによる偏りが結果に影響しないように、統計学的に調整を行いました。 糖尿病に対するオッズ比(95%信頼区間)を計算したところ、総アディポネクチン濃度が最も低い群(中央値 3.1µg/mL)を基準とすると、2番目、3番目、4番目の群の糖尿病のオッズ比は、それぞれ0.48 (0.34-0.68) 、0.36 (0.24-0.53)、0.24 (0.15-0.38)であり、総アディポネクチン濃度が高いほど糖尿病リスクが低下しました(図1)。  

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図1. 総アディポネクチン濃度と糖尿病のオッズ比

 

アディポネクチンの中で、糖尿病予防効果が強いと考えられているタイプの高分子量アディポネクチン濃度でも同様の結果が得られました(図2)。 

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図2. 高分子量アディポネクチン濃度と糖尿病のオッズ比

 

先行研究と一致して、血中アディポネクチン濃度が高いほど糖尿病リスクが低い、というアディポネクチンが糖尿病に予防的であることを支持する結果が、本研究でも得られました。

 

アディポネクチン遺伝子のrs2241766やrs1501299の配列に違いがあってもアディポネクチン濃度や糖尿病リスクは変わらない

次に、アディポネクチン遺伝子の配列に違いがあるとアディポネクチン濃度や糖尿病リスクが変わるかどうかを検討しました。 アディポネクチン遺伝子の配列には多型があることが知られており、その中でも日本をはじめとする国内外の先行研究で最も多く調査されている多型にrs2241766(+45T > G)やrs1501299(+276 G > T)があります。集団の中で、TT,TG,GGという3つのタイプに分かれ、いくつかの先行研究では、TTのタイプの人に比べ、TGもしくはGGのタイプの人の方が、糖尿病リスクが高いと報告されていました。 本研究で解析した結果、いずれの多型も高分子量アディポネクチン濃度と、統計学的に有意には関連していませんでした(P=0.18(+276多型)、0.39(+45多型))(図3)。

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図3. アディポネクチン遺伝子多型と高分子量アディポネクチン濃度

 

同様に、糖尿病リスクとも関連していませんでした(P=0.80(+276多型)、0.93(+45多型))(図4)。

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図4. アディポネクチン遺伝子多型と糖尿病オッズ比

これらの結果から、アディポネクチン遺伝子のrs2241766やrs1501299の配列に違いがあってもアディポネクチン濃度や糖尿病リスクは変わらないことが示唆されました。

 

この研究について

本研究では、先行研究同様、アディポネクチン濃度は糖尿病リスク低下と関連していることが確認されました。しかし、このような観察型の研究の限界として、結果を見えにくくするさまざまな要因(偶然、偏り、交絡)をすっきりと排除することができないため、現時点では、アディポネクチンにどれほど糖尿病予防効果があるかは明らかではありません。そのことを検証するためには、アディポネクチンの作用を高める薬を投与するような介入型の試験など、さらなる研究が必要と思われます。 また、今回の結果では、アディポネクチン遺伝子のrs2241766やrs1501299の配列の違いは、アディポネクチン濃度とも糖尿病リスクとも関連していませんでした。しかし、遺伝子多型を用いた研究では、多くのサンプルサイズを必要とすることが多く、より大規模な集団で検証する必要があります。また、アディポネクチン遺伝子配列の近くには他にも多数の多型が存在することが知られており、遺伝因子によるアディポネクチンや糖尿病リスクへの影響を解明するためには、それら他の多型情報を用いて、さらに検討する必要があります。

研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針について審査を受けてから開始します。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。多目的コホート研究では、ホームページに多層的オミックス技術を用いる研究計画のご案内や遺伝情報に関する詳細も掲載しています。

 

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