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多目的コホート研究(JPHC Study)

ペプシノゲン法とヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査による胃がん罹患予測

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2016年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の約10万人の方々を平成16年(2004年)まで追跡した調査結果の一部を用いて、ペプシノゲン法とヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査による胃がん罹患予測に関する分析を行った結果を専門誌で論文発表しましたのでご紹介します(BMC Cancer 2017: 17:183)。

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胃がん罹患の主要原因であるヘリコバクター・ピロリ菌に対する抗体検査と胃粘膜の萎縮度を表すペプシノゲン法を、各々、あるいは、組み合わせることにより、胃がん保有や将来の罹患リスクを判定する方法が、検診を始めとする臨床現場に応用することが期待されています。これまで、胃がん罹患リスクについては、症例対照研究やコホート研究を通じて、ヘリコバクター・ピロリ菌感染や胃粘膜の萎縮が胃がん罹患リスクを高めることを報告してきました。しかし、これらの検査を臨床的に応用するためには、胃がん罹患を予測する精度を評価する必要があります。その検査により、胃がん罹患を予測した場合でも、実際に、胃がんに罹患した人が少なければ、偽陽性が増加し、無駄な心配をしたり、余計な検査をしたりするなどの、不利益につながります。そこで、ペプシノゲン法やヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査を用いた胃がん罹患予測の感度・特異度について、ROC分析(Receiver operating characteristic analysis、受信者操作特性曲線分析)を用いて調べました。

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ヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査とペプシノゲン法の併用法(いわゆるABC検診)の胃がん罹患予測の精度(特に、特異度)は低い

現在は、胃がんリスク検査として、ペプシノゲン法とヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査の併用法(いわゆるABC検診)が行われている場合があります。この2つの検査で用いられている指標、PG I/II(ペプシノゲン法)とヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査について、単独法(PG I/II法)と併用法を比較しました。その結果、胃がん罹患予測の感度・特異度が最も高いのは、単独法(PG I/II法)であり、最適のカットオフ値は、2.5あるいは3.0でした。現在、用いられているカットオフ値3.0を用いた場合の感度は86.9%、特異度は39.8%でした(図)。一方、ヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査とペプシノゲン法の併用法(抗体価10.0 U/mL以上、または、PGI/Ⅱ3.0かつPGI70以下を陽性)を用いた場合の感度は97.2%、特異度21.1%でした。ただし、単独法(PG I/II法)と併用法のいずれの方法でも、ROC曲線下の面積は、0.7以下であることから、胃がん発症予測として用いるには精度が低いということがわかりました。

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さらなる研究結果の蓄積が必要

ヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査とペプシノゲン法の併用法は、胃がん罹患予測の可能性があることから、一部の地域では「リスク検診」などとして導入されています。すでに、ヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査とペプシノゲン法の併用法は、現在ある胃がんを診断する精度が低く、胃がんをみつける1次検診への利用が難しいことが指摘されています。これに加え、今回の結果から、将来の胃がん罹患予測の精度も低く、特に、胃がんを罹患しない人にも誤って「胃がん罹患の可能性あり」として診断する可能性が高いことが明らかになりました。また、その精度はPG I/II単独法よりも低い結果でした。すなわち、併用法を用いなくても、PG I/II単独法でも同等の成果が得られるということになります。従って、ヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査とペプシノゲン法を用いた方法はいずれも、胃がん罹患予測の精度は低いことから、このまま臨床に応用するには、さらに十分な検討が必要です。特に、偽陽性(胃がんが発症しない人にも誤って「胃がん罹患の可能性あり」として診断する)が高いことは、受診者の追加検査・治療の誘発や精神的不安などの不利益の増加につながります。

今回の結果から、ヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査とペプシノゲン法を用いた方法は、胃がんにならない人を正しく識別することはできなさそうですが、感度が97%と高いことから、胃がんになりやすい人を絞り込むことはできそうなので、リスクに応じた胃がん検診の間隔の延長や健康教育に応用できる可能性は残されています。今後は、ヘリコバクター・ピロリ抗体(IgG抗体)検査とペプシノゲン法をどのように用いていくかについて、さらなる検討が必要です。

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