多目的コホート研究(JPHC Study)
発酵性大豆製品の摂取量と高値血圧の発症との関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所(呼称は2017年現在)管内にお住まいだった、調査開始時に循環器疾患などの既往を有さない40~69歳の正常血圧者で、その5年後にも血圧測定を行った4,165人を対象に、大豆製品の摂取量と5年後の高値血圧(収縮期血圧≥130mmHgかつ/または拡張期血圧≥85mmHgと定義)発症との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Journal of Nutrition 2017年)。
大豆製品の摂取量と血圧値の変化に関するこれまでの研究において、動物実験では、大豆製品及び大豆製品に含まれるイソフラボンに降圧作用があることが報告されています。ヒトに関しては、複数の研究結果を統合し、分析した研究によると、大豆たんぱくについては降圧作用がありましたが、イソフラボンについては降圧作用がなかったとする報告がある等、結果が一貫していません。また、一般住民における日常的な大豆製品、また、その中でも発酵性大豆製品の摂取と数年後の高値血圧の発症との関連についての報告はありませんでした。そこで、私たちは、大豆製品、大豆製品からのイソフラボン、発酵性大豆製品及び発酵性大豆製品からのイソフラボンの各々の摂取量と5年後の高値血圧の発症との関連を調べました。
発酵性大豆製品の摂取量が多いグループで5年後の高値血圧発症のリスクが低下
大豆製品及び発酵性大豆製品について、摂取量により3つのグループに分け、高値血圧発症のリスクを比較しました。その結果、発酵性大豆製品の摂取量が多いグループで高値血圧発症のリスクの低下がみられました(図1)。また、発酵性大豆製品からのイソフラボンの摂取量についても発酵性大豆製品と同様の関連がみられました(図1)。一方、大豆製品及び大豆製品からのイソフラボンの摂取量と高値血圧の発症との間には関連がみられませんでした(図2)。
さらなる研究結果の蓄積が必要
今回の研究では、血圧が正常な男女において、発酵性大豆製品及び発酵性大豆製品からのイソフラボンの摂取量は、高値血圧の発症のリスクを低下させることが明らかになりました。これまでの研究において、大豆に含まれるイソフラボンには平滑筋の増殖を抑える作用があり、血管壁の肥厚を抑制することが報告されています。また、大豆に含まれるイソフラボンは、腸内細菌の作用等により、イソフラボンアグリコンとなり、腸管から吸収されることが分かっています。そして、本研究で着目した発酵性大豆製品には、イソフラボンアグリコンが多く含まれており、さらに、細胞の増殖や分化に関係するポリアミンが多く含まれることが報告されています。これらのことが、発酵性大豆製品及び発酵性大豆製品からのイソフラボンの摂取量が高値血圧の発症リスクの低下と関連がある可能性が考えられます。また、みそや納豆等は日本の伝統的な発酵性大豆製品であり、多くの場合、これらの食品を摂取する際、降圧作用が報告されている野菜等も共に摂取している可能性があります。そのため、今回の解析では、大豆製品以外で降圧作用が期待できる食品を統計学的に考慮して行いましたが、それらの食品が今回の結果に影響を与えた可能性を完全に否定することはできません。今後も発酵性大豆製品を多く摂取している日本人、そしてアジアからのさらなる研究結果の蓄積が必要です。