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現在までの成果

血中n-3系多価不飽和脂肪酸と虚血性心疾患との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内(呼称は2018年現在)にお住まいだった方々のうち、循環器疾患、がんの既往のない40~69歳の男女約3万4千人の方々を、平成19年(2007年)までの追跡結果に基づいて、血中n-3系多価不飽和脂肪酸(=n-3系脂肪酸)[エイコサペンタエン酸(EPA)+ドコサペンタエン酸(DPA) +ドコサヘキサエン酸(DHA)]と虚血性心疾患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Atherosclerosis 2017年12月ウェブ先行公開)。

これまでの研究から、魚摂取は虚血性心疾患の予防因子であることが広く知られています。私たちの研究班でも、魚摂取により虚血性心疾患のリスクが低下することを報告しています(魚・n-3脂肪酸摂取と虚血性心疾患発症との関連について)。しかし、日本人において、魚に豊富に含まれるn-3系脂肪酸の血中濃度と虚血性心疾患との関連については、十分に明らかにされていません。そこで、今回は、日本人における、n-3系脂肪酸の血中濃度と虚血性心疾患の発症リスクとの関連を調べました。

 

保存血液を用いたコホート内症例対照研究

多目的コホート研究を開始した時期(1990年から1995年まで)に、一部の方から、健康診査等の機会を利用して研究目的で血液を提供していただきました。研究開始から2007年までの追跡調査中に、209人の虚血性心疾患の発症(非致死性157人と致死性52人)が確認されました。虚血性心疾患の発症が確認された方1人に対し、虚血性心疾患の発症が確認されなかった方から年齢・性別・採血日・食事から採血までの時間・調査地域の条件をマッチさせた2人を無作為に選んで対照グループ(418人)に設定し、合計627人を今回の研究の分析対象としました。今回の研究では、保存血液を用いて、n-3系脂肪酸濃度を測定しました。

 

n-3系多価不飽和脂肪酸濃度の高値は致死性の虚血性心疾患の発症リスク減少と関連

n-3系脂肪酸濃度を小さい方から4分位に分け、肥満度、喫煙、飲酒、高血圧の程度、血糖の状態などの他の要因を統計学的に調整した後、n-3系脂肪酸濃度が一番低い群(Q1)を基準とした場合の、他の群の虚血性心疾患リスクを比較しました。また、虚血性心疾患を非致死性と致死性に分けて、それぞれの関連も調べました。その結果、虚血性心疾患全体では、n-3系脂肪酸と発症リスクの関連は認められませんでした(図)。非致死性の虚血性心疾患についても同様にn-3系脂肪酸との関連は認められませんでした(図)。一方で、致死性の虚血性心疾患については、n-3系脂肪酸濃度が一番低い群(Q1)に比べ、一番高い群(Q4)において、88%の発症リスク低下が認められました(p=0.03)(図)。

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図 血中n-3系多価不飽和脂肪酸(n-3系脂肪酸)と虚血性心疾患
※肥満度、喫煙、飲酒、高血圧の程度、血糖の状態などの他の要因を統計学的に調整

 

まとめ

今回の結果から、虚血性心疾患全体ではn-3系脂肪酸との関連は認められませんでした。また、非致死性の虚血性心疾患とも関連はありませんでしたが、致死性の虚血性心疾患では、n-3系脂肪酸濃度が高くなるほど発症リスクが低下していました。欧米における、n-3系脂肪酸と虚血性心疾患との関連を調査した複数の報告をまとめたメタアナリシスでも、n-3系脂肪酸と非致死性の虚血性心疾患では関連がなく、致死性の虚血性心疾患で関連が認められており、本研究の結果と合致しておりました。ただし、2006年にわたしたちが発表した魚摂取と虚血性心疾患における研究では、食事調査アンケートから算出したn-3系脂肪酸摂取量と非致死性の虚血性心疾患で発症リスクの低下が認められ、致死性の虚血性心疾患との関連は認められておりませんでした。この違いは、本研究では血液提供者のみを対象としており、女性が多く、また、喫煙者が少ないといった健康意識の高い方が多かった可能性などが理由として考えられます。また、今回の研究では、致死性の虚血性心疾患の症例数が少ないため、結果が偶然に得られた可能性も否定できません。今後、アジアからのさらなる研究結果の蓄積が必要と思われます。

研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、人を対象とした医学研究における倫理的側面等について審査を受けてから行っております。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページに保存血液を用いた研究計画のご案内を掲載しています。

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