トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >血中ビタミンD濃度とがん罹患リスクについて
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

血中ビタミンD濃度とがん罹患リスクについて

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内(呼称は2018年現在)にお住まいだった方々のうち、ベースライン調査のアンケートにご回答下さり、健診などの機会に血液をご提供下さった40~69歳の男女約3万4千人の方々を、平成21年(2009年)まで追跡した結果に基づいて、血中ビタミンD濃度とがん罹患リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(BMJ 2018年3月公開)。

  

ビタミンDとは

ビタミンDは、脂溶性ビタミンで、カルシウムとともに骨代謝において重要な役割を果たしています。また、近年の実験研究から、細胞増殖を抑えたり、細胞死を促進したりする作用により、がんを予防する効果があるのではないかと考えられています。人を対象としたコホート研究でも、血中ビタミンD濃度が上昇すると、大腸がんや肺がんに罹患するリスクが低下する傾向が観察されてきました。しかし、大腸がん・肺がん・乳がん・前立腺がん以外のがんや、がん全体を対象としたコホート研究は、まだ十分ではありません。そこで、私たちは、日本人を対象とした大規模なコホート研究である多目的コホート研究において、血中ビタミンD濃度とがん罹患リスクとの関連を調べることにしました。  

 

保存血液を用いた症例コホート研究について

多目的コホート研究のベースライン調査の一環として、一部の方から、健康診査等の機会を利用して研究目的で血液をご提供いただきました。今回の研究では、血液のご提供に加えて、アンケートにもご回答下さった男女約3万4千人の方々を対象に追跡調査を行いました。研究開始から2009年までに、3,734人のがん罹患が確認されました。これに対し、同じ約3万4千人の方々の中から、4,456人を無作為に選んで対照グループに設定しました。今回の研究では、がんに罹患する前の保存血液を用いて、血中ビタミンD濃度の測定を行いました。

  

血中ビタミンD濃度の上昇はがん罹患リスク低下と関連

血中ビタミンD濃度を男女別に4等分位(罹患者数が130未満のがんでは3等分位)に分け、がん全体やがんの部位別に関連を検討しました。個人の血中ビタミンD濃度は季節によって変動するので、採血した季節(春夏秋冬)を考慮してグループ分けを行いました。年齢、性別、喫煙、飲酒、身体活動、がん家族歴、糖尿病の既往、body mass index (BMI)などのがんと関連する要因を統計学的に調整し、血中ビタミンD濃度が最も低いグループを基準としたところ、血中ビタミンD濃度が2番目に低いグループから何らかのがんに罹患するリスクが統計学的有意に低下し、血中ビタミンD濃度が2番目に高いグループで最も低下していました(図1)。また、血中ビタミンD濃度が最も低いグループを基準に、最も高いグループのがん罹患リスクを部位別にみたところ、肝がんの罹患リスクが統計学的有意に低下していました(図2の肝臓)。なお、ほぼ全ての部位においてがん罹患リスクが上昇する傾向は見られませんでした(図2)。

292_1

図1 血中ビタミンD濃度とがん全体の罹患リスク

※1 赤字は統計学的有意
※2 各グループのハザード比は、そのグループを代表する血中ビタミンD濃度(採血した季節(春夏秋冬)を考慮し、男女別に求められた8つの中央値を平均した値)にプロット

 

292_2

図2 血中ビタミンD濃度とがんの部位別罹患リスク

※血中ビタミンD濃度が最も低いグループを1とした場合の、最も高いグループのハザード比

 

まとめ

今回の研究から、血中ビタミンD濃度が上昇すると、何らかのがんに罹患するリスクが低下することが分かりました。今回の研究の結果は、実験研究で示されているビタミンDのがん予防効果を支持するものと考えられます。ただし、血中ビタミンD濃度が最も高いグループでは、がん罹患リスクの更なる低下が見られなかったことから、血中ビタミンD濃度が一定のレベルを超えるとそれ以上のがん予防効果は期待できない可能性があります。

今回の研究は、アジア人において、血中ビタミンD濃度とがん全体との関連を検討した初めての研究です。今回の研究では、欧米人の研究を中心に報告されている大腸がんの罹患リスク低下が観察されませんでした。このような結果の違いは、偶然による可能性も否定できませんが、人種など他の要因による違いも考えられます。今後、日本人だけでなく、アジア人を対象とした研究の蓄積が必要と思われます。

多目的コホート研究では以前にも、大腸がんと前立腺がんを対象に血中ビタミンD濃度との関連を検討したことがあります。今回の研究は、以前の研究より追跡期間が長く、症例数も増えていましたが、明らかな関連は見られないと言う結果は同じでした。

血中ビタミンD濃度と大腸がんとの関連

血中ビタミンD濃度と前立腺がんとの関連

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っております。

 

上に戻る