多目的コホート研究(JPHC Study)
成人期の体格と子宮体がん罹患との関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。本研究では、平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2018年現在)管内にお住まいだった方々のうち、がんなっていなかった40~69歳の女性約5万3千人を、平成24年(2012年)まで追跡した結果に基づいて、調査開始時の肥満度(Body Mass Index; BMI)や身長と、その後の子宮体がん罹患との関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Eur J Cancer Prev.2019 May;28(3):196-202)。
肥満度と子宮体がんとの関連性については、すでに欧米諸国から多数報告され、肥満度が高いと子宮体がんに罹患するリスクが高いことが確立されています。しかしながら、アジア人を対象としたコホートからの報告は3件にとどまっています。また、子宮体がんは、エストロゲン依存性に発生するI型子宮体がんと、エストロゲン非依存性のII型子宮体がんに分類されます。これまでの研究では、肥満度が高い閉経後の女性では、I型子宮体がんのリスクが高いという関連性は一致しており、閉経後女性では主にエストロゲンが脂肪細胞から合成されるため、肥満度とエストロゲン依存性の子宮体がんとの関連性は、想定されるメカニズムと矛盾しない結果と言えます。一方で、近年、欧米からの報告を中心に、II型子宮体がんにおいても、肥満との関連性が示唆されています。加えて、これまでの研究結果から、身長と子宮体がんの関連性は十分に明らかにされていません。そこで、日本人において、BMIや身長と子宮体がん全体、さらにI型、II型にわけた場合の子宮体がんリスクとの関連を検討しました。
成人期のBMIは子宮体がん全体・I型子宮体がん罹患リスクの増加と関連
調査開始時のアンケート調査から、調査時のBMI[体重(kg)÷身長(m)2]を算出し、それを7つのグループ(<19.0, 19.0-20.9, 21.0-22.9, 23.0-24.9, 25.0-26.9, 27.0-29.9, ≥30.0 kg/m2)に分けて、その後の子宮体がん罹患を比較しました。本研究の追跡調査中には、180人の子宮体がん(I型子宮体がん119人、II型子宮体がん21人)の罹患が確認されました。BMI23.0-24.9のグループと比較してBMI27.0以上のグループで、統計学的有意に子宮体がん全体のリスクが上昇していました(図1)。また、I型子宮体がんでも同様の関連性が認められましたが、II型子宮体がんでは、BMIとの関連性は認められませんでした(図1)。
調査開始時の年齢、地域、喫煙状況、飲酒状況、コーヒー摂取量、運動、ホルモン補充療法の有無、月経開始年齢、閉経状況、閉経年齢、出産回数、糖尿病歴で統計学的に調整。
図1 肥満度(BMI)と子宮体がんリスク
成人期の身長は子宮体がん罹患のリスクと関連なし
成人期の身長を5つのグループ(<148, 148-151, 152-155, 156-159, ≥160cm)に分けて、その後の子宮体がん罹患との関連性を検討しました。結果は、身長148cm未満のグループと比較して、それ以上の身長のグループでの子宮体がんリスクの上昇は認められませんでした(図2)。
調査開始時の年齢、地域、喫煙状況、飲酒状況、コーヒー摂取量、運動、ホルモン補充療法の有無、月経開始年齢、閉経状況、閉経年齢、出産回数、糖尿病歴で統計学的に調整。
図2 身長と子宮体がんリスク
日本人における肥満度とII型子宮体がんの関連性について
欧米諸国からの研究結果では、肥満度が30.0kg/m2を超えるグループでは、基準となったグループと比較してII型子宮体がんのリスクが上昇している報告もありましたが、私たちの研究結果では、肥満度とII型子宮体がんリスクとの関連性は認められませんでした。この理由として、欧米人と比較して日本人の肥満度が30.0 kg/m2を超える割合が少なく、かつ、II型子宮体がんに罹患した方が21名と少なかったことで、統計学的に関連性を十分に評価できなかったことが原因のひとつとして考えられました。今後日本の他のコホート研究のデータを統合解析するなど、さらなる検討が必要です。