多目的コホート研究(JPHC Study)
食事調査票から得られたアクリルアミド摂取量の正確さについて
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。食生活と病気との関連を明らかにする研究では、1人1人の食生活を把握する方法の一つとして、食物摂取頻度調査票(FFQ)という比較的簡易なアンケートを用いて、各個人の習慣的な摂取量を推定しています。このFFQから推定した摂取量の正確さを確認することは、食生活と病気との関連について調べた研究結果の信頼性を確保するために必要な過程です。今回、多目的コホート研究の研究開始から5年後に用いられたFFQについて、アクリルアミド摂取量の推定を行い、その正確さを調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Epidemiol.2018 Dec 5;28(12):482-487)。
アクリルアミドとは
アクリルアミドは、紙の強度を高める紙力増強剤や接着剤などの原材料として利用されている化学物質で、仕事や環境を通じて大量に摂取・吸入・接触すると神経毒性があることが知られていたほか、国際がん研究機関では、ヒトに対して、おそらく発がん性がある物質とされています。近年、アスパラギンと還元糖という栄養素を含む食品を120℃以上の高温条件下で加工・調理すると、化学反応を起こすことなどによってアクリルアミドが生成され、食品中にも含まれていることがわかりました。しかし、食事によるアクリルアミドの摂取量やその健康影響については、欧米において調べ始められているものの、日本をはじめとしたアジア諸国では摂取量の推定方法が未だ確立していないのが現状でした。
研究方法の概要と主な結果
多目的コホート研究に参加した男女のうち、5年後調査で用いられたFFQに1年間隔で2回答え、さらに28日間の食事記録調査(DR)にご協力いただいた565人の男女を対象としました(コホートⅠは215名、コホートⅡは350名)。FFQとDRの2つの食事調査方法によって、それぞれのアクリルアミドの総摂取量を算出し、2つのコホートでは調査年が異なるため、コホート別にその相関係数を計算しました。
FFQから算出されたアクリルアミドの平均値は、コホートⅠとⅡで、7.03µg/日、 7.14µg/日、DRから算出されたアクリルアミドの平均値は、コホートⅠとⅡで、6.78µg/日、 7.25 µg/日でした。FFQとDRの相関係数(この値が1に近いほど簡易なFFQでの摂取量推計が確からしいことを示す)は、コホートⅠでは男性で0.54、女性で0.48、コホートⅡでは男性で0.40、女性で0.37でした。さらに、摂取量の少ない者から5つのグループに分けて順序付けし、2つの調査方法間でその順序の一致度を確認したところ、高く一致することがわかりました(κ係数は0.8以上)。
※κ係数=2つの評価間の一致度を表す場合に用いられる統計量の1つ
日本人におけるアクリルアミド摂取量の寄与食品
DRにおいて、アクリルアミドに関わる食品群を総摂取量に対する割合から調べたところ、嗜好飲料類が最も高い割合を占めており、次に菓子類、野菜類、いもおよびでんぷん類、穀類が続きました(図1)。
この研究結果からわかること
今回の研究結果から、FFQで得られたアクリルアミド摂取量は、疫学研究を行うために必要な、ある程度の正確さがあることがわかりました。欧米では、一日あたりのアクリルアミドの総摂取量が20μg程という報告もあり、フライドポテトなどが供給源となる主な食品として挙げられています。これと比較すると、今回、日本人で推定したアクリルアミド摂取量は少なく、その供給源となる食品も欧米とは異なることが分かりました。この結果は今後、多目的コホート研究で、アクリルアミド摂取量とがん、脳卒中、心筋梗塞などとの関連を分析する際の重要な基礎資料となります。