多目的コホート研究(JPHC Study)
喫煙・飲酒と肝内胆管がん・胆道がん罹患との関連
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993)年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2018年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約10万3千人を平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、喫煙・飲酒と肝内胆管がん・胆道がん罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Epidemiol.2019 May 5;29(5):180-186)。
喫煙・飲酒はいくつかのがん腫においてリスク因子として確立していますが、肝内胆管がんおよび胆道がんとの関連については十分明らかにされていません。そこで、私たちは、喫煙・飲酒と肝内胆管がん・胆道がんに罹患するリスクとの関連を検討しました。
喫煙者(特に飲酒する喫煙者)の男性において、肝内胆管がんのリスクが高かった
調査開始時のアンケート調査で、喫煙習慣の項目についての回答をもとに、「吸わない」、「やめた」、「吸う(喫煙指数 [パックイヤー:たばこ1箱を20本として、1日当たりの喫煙箱数と喫煙年数を掛けあわせた値] 30未満)」、「吸う(喫煙指数30以上)」の4つのグループに分けました。飲酒については、お酒を「飲まない(月に1回未満)」、「時々飲む(月に1-3回)」、「飲む(週1回以上飲酒し、エタノール換算で週300g未満)」、「飲む(週1回以上飲酒し、エタノール換算で週300g以上)」の4つのグループに分けて、その後の肝内胆管がん・胆道がんのリスクを比較しました。
2012年までの追跡期間中に、今回の研究対象に該当した男性約4万8千人のうち、80人が肝内胆管がんに、246人が胆道がんに罹患し、女性約5万5千人のうち、60人が肝内胆管がんに、227人が胆道がんに罹患しました。解析にあたっては、年齢、地域、BMI、胆石症の既往、糖尿病の既往、慢性肝炎・肝硬変の既往、緑茶摂取量のグループによる違いが結果に影響しないように統計学的に調整しました。
解析の結果、男性において、吸わない人と比較して吸う人で肝内胆管がんに罹患するリスクが上昇していました(図1)。また、統計学的に有意ではありませんでしたが、飲まない人と比較して、アルコールの摂取量が多い人で肝内胆管がんのリスクが高くなる傾向がありました(図2)。さらに、飲酒習慣別に喫煙の影響を見たところ、飲酒するグループにおいて、吸わない人と比較して、吸う人で肝内胆管がんのリスクが高くなっていました(図3)。一方で、胆道がんのリスクは、喫煙および飲酒とは関連していませんでした。
女性においては、喫煙および飲酒をする人の数が限られていたため、肝内胆管がんおよび胆道がんのリスクとの関連は明らかではありませんでした。
この研究について
今回の研究から、男性において、喫煙・飲酒により肝内胆管がんのリスクが高まり、飲酒者の喫煙による肝内胆管がんのリスクはより高くなる可能性が示唆されました。タバコには、体内で発がん性物質に代謝される化学物質が含まれていますが、飲酒によるアルコールの作用によりその代謝が促進されたことが今回の結果のメカニズムとして考えられます。胆道がんとの関連は認められませんでしたが、喫煙・飲酒は他の様々ながんのリスクと関連が明らかにされていることから、日頃より禁煙・節酒を心がけましょう。
なお、本研究は過去の研究と比較して大規模な研究ですが、それでも肝内胆管がん・胆道がんは罹患率が低いがんであるため、統計学的な検出力は限られており、そのため今回得られた結果も偶然の可能性は否定できません。これら胆道系のがんと喫煙・飲酒の関連については、過去の疫学研究も含めて一貫しない結果が報告されており、また研究の数自体も限られていることから、今回の結果を確認するためには今後のさらなる研究が必要です。