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現在までの成果

複数の血中炎症関連マーカーと大腸がん罹患との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立つような研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所管内(呼称は2018年現在)にお住まいだった約2万3千人の方を、平成22年(2010年)末まで追跡した結果に基づいて、複数の血中炎症関連マーカーと大腸がん罹患との関連について検討しました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Int J Cancer 2018年8月公開 10.1002/ijc.31821)。

潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患が、大腸がんの確立した危険因子であることが示すように、慢性炎症は重要な発がんメカニズムの一つと考えられています。しかしながら、健常集団における血中の炎症関連マーカーと大腸がんリスクとの関連についての前向き研究はほとんど行われていません。報告されているものでは、C反応性たんぱく、インターロイキン6、腫瘍壊死因子(TNF)-αなど数種類の血中マーカーを測定した研究がありますが、大腸がんとの関連についてはっきりした結論は出ていません。近年開発された複数の血中炎症関連マーカー濃度を一度に測定する技術を用い、健常集団から収集された血液を用いて、62の炎症関連マーカー(サイトカイン、可溶性受容体、急性期たんぱく質、増殖因子)の濃度と、その後の大腸がん罹患との関連を調べました。

 

保存血液を用いた、症例コホート研究

多目的コホート研究のベースライン調査アンケートに回答のうえ、健診などの機会に血液を提供してくださった40~69歳の男女約2万3千人の方々を対象に追跡調査を行いました。研究開始から平成22年(2010年)末までに457例の大腸がん罹患が確認されました。これに対し、同じ約2万3千人の方々の中から、774人を無作為に選んで対照グループに設定しました。今回の研究では、がんに罹患する前の保存血液を用いて、炎症関連マーカー濃度の測定を行いました。

 

6つの炎症関連マーカーが大腸がんの罹患と関連

図に示すように、62の炎症関連マーカーのうち5つのケモカイン(CCL2/MCP1、CCL15/MIP1D、CCL27/CTACK、CCL3/MIP1A、CXCL6/GCP2)、1つの可溶性受容体(sTNFR2)について大腸がん罹患との間に統計学的有意な関連が見られました(傾向性P値 < 0.05)。CCL2/MCP1、CCL15/MIP1D、CCL27/CTACK、sTNFR2は血中濃度が高くなるほど高い大腸がんのリスク、CCL3/MIP1A、CXCL6/GCP2は血中濃度が高くなるほど低い大腸がんのリスクと関連していました。すでに大腸がんが発生していることで炎症関連マーカーが変化している影響を除くため、研究開始から5年以降に大腸がんと診断された症例に絞った解析でも、上記5つのケモカインについての大腸がんとの関連性は全体の解析と一致した結果でした。また、大腸がんを結腸、直腸がんの部位別に分けてみたときでも結果は変わりませんでした。しかしながら、複数のマーカーを一度に調べているため統計学的に有意な関連が出やすいことを考慮した解析(false discovery rateで調整した解析)では、いずれのマーカーも統計学的に有意な関連はありませんでした。

図 血中炎症関連マーカーと大腸がん罹患との関連

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 *62の炎症関連マーカーのうち統計学的に有意な関連がみられたマーカーのみ図示。
*各炎症関連マーカーの血中濃度が最も低いグループを基準とした、最も高いグループの大腸がん罹患のハザード比を示す。
*年齢、性、地域、大腸がんの家族歴、糖尿病の既往歴、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、身体活動で統計学的に調整した。

  

まとめ

本研究の結果から、血中炎症関連マーカーのうちケモカインの、3種類は大腸発がん罹患リスクに、2種類は大腸がん罹患に予防的に関与していることが示唆されました。ケモカインはサイトカインの一種で、感染や外傷の起こった場所に白血球を集める働きがあり、急性・慢性炎症に関与するものです。ケモカインは、腫瘍の増殖を調節することなどにより発がんの過程に関与することが示唆されていますが、その多面的な作用から発がんの促進にも抑制にも働く可能性が報告されています。sTNFR2は炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子の作用に影響を与えると考えられていますが、前向き研究では、血中sTNFR2濃度と大腸がん罹患リスクとの関連は一致していません。研究開始から5年以降に大腸がんと診断された症例に絞った解析でも全体の解析と同様の結果が得られたことは、大腸がんの罹患を予測するマーカーとなる可能性を示すものですが、他の集団でも同じような結果が得られるかどうかさらなる検討が必要です。

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っております。

 

CCL:C-C motif ligand、CTACK:cutaneous T-cell attracting chemokine、CXCL:C-X-C motif ligand、GCP:granulocyte chemotactic protein、MCP:monocyte chemoattractant protein、MIP:macrophage inflammatory protein、TNFR:tumor necrosis factor receptor

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