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多目的コホート研究(JPHC Study)

肥満度と病型別脳梗塞の発症リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2018年現在)管内に在住の40~69歳の男女約9万人の方々を平成23年(2011年)まで追跡した調査結果にもとづいて、肥満度(Body Mass Index、以下BMI)と脳梗塞発症との関連をその詳細な病型別に調べ、専門誌(J epidemiol.2019 Sep 5;29(9):325-333

 

研究の背景

脳卒中には脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血の3つの病型がありますが、日本人の脳卒中ではその過半数を脳梗塞が占めています。脳梗塞は、病態によりさらに「ラクナ梗塞」、「アテローム血栓性脳梗塞」、「心原性脳塞栓」の3つの病型に分けられます。これまでの研究において、肥満度と脳梗塞発症リスクとの関連は報告されていますが、肥満度と病型別脳梗塞の発症リスクについての詳細な関連は国内外を問わず報告が限られています。さらに、肥満による動脈硬化に対する影響が現れるには長い年月がかかる可能性がある一方で、肥満度は加齢に伴って変化するため、経年的な変化を考慮して脳梗塞発症との関連を検討する必要があります。そこで、本研究では、ベースライン、5年後調査、10年後調査の自己申告BMIの累積平均値を計算し、追跡期間中の病型別の脳梗塞発症との関連を調べました。

 

脳梗塞の各病型の定義

脳梗塞について、梗塞部位の特徴を画像診断によって判定し、ラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞診断に分類しました。心原性脳塞栓は、脳塞栓の存在、あるいは心房細動や中等症以上の弁膜症など塞栓源が明らかな場合に診断されました。なお、ラクナ梗塞は、脳の深部に起こる小さな脳梗塞で、脳の中心部を貫くように走る細い動脈が主として高血圧の影響によって硬化し、閉塞して起こる脳梗塞です。アテローム血栓性脳梗塞は、脳の比較的太い動脈の内部にコレステロールが蓄積して狭小化した内腔が閉塞に至ることによって起こる脳梗塞です。心原性脳塞栓は、心臓にできた血栓(血液の固まり)が血液の流れにのって脳まで運ばれ、脳の血管を閉塞させて起こる脳梗塞です。

 

累積平均肥満度の計算と解析方法

肥満度の指標には体重(kg)÷身長(m)2であるBody mass index(BMI)を用いました。本研究ではベースライン調査、5年後調査、10年後調査の最大3回のBMIを平均し累積平均BMIを求め、脳梗塞発症リスクとの関連を検討しました。解析では、BMIを19kg/m²未満、19- <21 kg/m²、21- <23 kg/m²、23- <25 kg/m²、25- <27 kg/m²、27- <30 kg/m²、30 kg/m²以上の7つのグループに分け、BMI 23- <25 kg/m2を基準グループとして、各グループの病型別脳梗塞の発症リスクとの関連を男女別に検討しました。年齢、喫煙状況、飲酒状況、余暇の運動習慣、高血圧・高脂血症・糖尿病の既往歴の影響を統計学的に調整し、生活習慣や既往歴も追跡期間中に変化するため、そのことを考慮した解析を行いました。

 

男性において、BMIが高いほどラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓の発症リスクが高い

20年(中央値)の追跡期間中に、男性42,343人のうち809人がラクナ梗塞、395人がアテローム血栓性脳梗塞、568人が心原性脳塞栓を発症しました。BMIが高いほどラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓の発症リスクが高いという関連が認められました(図1)。また、BMI 23-<25kg/m²を基準グループとした場合、BMIが19kg/m²未満はラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞の発症リスクがそれぞれ38%, 68%低く、BMIが25- <27kg/m²、30kg/m2以上は心原性脳塞栓の発症リスクがそれぞれ27%, 114%高くなりました(図1)。

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女性において、BMIは高いほどラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞の発症リスクが高い、BMIが30kg/m2以上では心原性脳塞栓の発症リスクが高い

20年(中央値)の追跡期間中、女性46,413人のうち481人がラクナ梗塞、218人がアテローム血栓性脳梗塞、298人が心原性脳塞栓を発症しました。BMIが高いほどラクナ梗塞及びアテローム血栓性脳梗塞の発症リスクが高いという関連が認められました(図2)。また、BMI 23- <25 kg/m²の基準グループに対して、BMIが21- <23 kg/m²ではラクナ梗塞発症リスクが26%低く、27- <30 kg/m²では40%ラクナ梗塞発症リスクが高く、さらに30kg/m2以上はラクナ梗塞発症リスクが77%、アテローム血栓性脳梗塞の発症リスクが90%、心原性脳塞栓の発症リスクが89%高くなりました(図2)。

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まとめ

肥満度(BMI)のように長期間にわたって作用する曝露要因を評価する指標として累積平均BMIを算出し、病型別脳梗塞の発症リスクとの関連を検討しました。その結果、男女とも、BMI 30 kg/m2以上のグループは、BMI 23- <25 kg/m2のグループに比べ、心原性脳塞栓の発症リスクが約2倍高くなりました。また、女性ではBMI 30 kg/m2以上のグループは、BMI 23- <25 kg/m2のグループに比べ、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞の発症リスクも約2倍高くなりました。我々の以前の報告では、女性でのみ、BMIと脳梗塞発症の正の関連性が認められましたが、本研究では追跡期間の延長によって統計学的な検出力が増加したことにより、男性でも同様の関連性が認められるようになったものと考えられます。また今回は解析では、累積平均BMIを用い、肥満による長期間の影響をより正確に評価した点も前回の報告とは異なる点です。

 

さらなる研究が必要

米国の研究ではBMIと病型別脳梗塞の発症リスクとの関連は、BMIから脳梗塞発症の経路にある血圧値、血糖や脂質の血液指標などによって説明されるという報告があります。本研究ではそれらの実測値がない、あるいは、一部の対象者に限られているため、詳細な比較検討はできませんでした。日本人においても、BMIが病型別脳梗塞の発症リスクに与える影響を説明するような因子があるのか、さらなる検討が必要と考えます。また、女性において認められた低いBMIで心原性脳塞栓の発症リスクが高くなる傾向についてもさらなる研究が必要です。

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