多目的コホート研究(JPHC Study)
血中HDLと軽度認知障害・認知症との関連
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に長野県佐久保健所管内の南佐久郡8町村(1990年時点)にお住まいだった、40~59歳の約1万2千人のうち、1995-96年の健診データがあり、かつ、平成26-27年(2014-15年)に行った「こころの検診」に参加した1,114人のデータにもとづいて、HDLコレステロールとその後の軽度認知障害・認知症との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Translational Psychiatry 2019年1月)。
海外のある研究では、認知症の3分の1は、その危険因子をとりのぞくことで予防されると推計されており、正常と認知症の中間といわれる軽度認知障害や、認知症を、早期に発見し予防につなげることが重要であると考えられています。 複数の海外の研究では、HDLコレステロールが高いと、軽度認知障害や認知症のリスクが低下することが報告されており、早期発見の予測マーカーとして注目されていますが、コレステロールが低下する高齢期に測定したデータを用いた研究が多いため、結果が一致しておらず、よくわかっていません。そのため、私たちは、より早期の、中年期のHDLコレステロールが、その後、高齢期の認知機能に影響を与えるかを調べました。 軽度認知障害と認知症の診断は、記憶やその他の認知機能に関する4つの検査と、医師の判定により行われました。
HDLコレステロールは、軽度認知障害・認知症のリスク低下に関連
こころの検診において、1,114人のうち、386人が軽度認知障害、53人が認知症と診断されました。血中HDLコレステロール濃度を4分位にわけ、喫煙・飲酒などの他の危険因子を統計学的に調整した後、血中HDLコレステロールが一番低いグループを基準(Q1)とした場合の、ほかのグループ(Q2:1.29-1.50, Q3:1.53-1.76, Q4≧1.78mmol/l)の軽度認知障害のリスクを比較しました。診断された数が少なかった認知症のリスクは、基準(Q1)と比較した、それ以外をまとめたグループ(Q2-4:≧1.29 mmol/l)のリスクを算出しました。
その結果、基準(Q1)と比較して、血中HDL濃度が一番高いグループ(Q4)の軽度認知障害のリスクは0.47倍と、53%の低下がみられました。認知症については、基準(Q1)と比較して、基準以外のグループ(Q2-4)のリスクは0.37倍と、63%の低下がみられました。
図1.HDLコレステロールと軽度認知障害、認知症
年齢、性別、教育歴、アルコール摂取、喫煙、body mass index、高血圧歴、糖尿病歴、抗コレステロール薬の使用、LDLコレステロール、中性脂肪で統計学的に調整
さらなる研究が必要
HDLコレステロールと認知機能については、認知機能を改善することに関係している遺伝子が、同様にHDLコレステロールを高くすることが報告されていたり、認知機能の低下と関連する脳梗塞に予防的であったりすることが報告されています。今回の研究では、中年期のHDLコレステロールが、約20年後の認知機能に関係があることが示され、特に、HDLコレステロールが2番目に高いグループでも認知症のリスクが下がっていることから、HDLコレステロールの低い人に、HDLコレステロールを少しでも高くする生活(運動、適量飲酒、たばこを吸わない、など)をすることが、認知症を予防する可能性が示されました。
今回の研究は、一度の検査の診断で、認知機能を評価しましたので、今後は、中年期のHDLコレステロールが、軽度認知障害や認知症の進行についてどのように関わるかを明らかにする研究が必要です。