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多目的コホート研究(JPHC Study)

女性生殖関連要因とリンパ腫罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、がんになっていなかった40~69歳の女性約4万2千人を、平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、女性生殖関連要因とリンパ腫罹患リスクとの関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Cancer Sci.2019 Apr;110(4):1442-1452)。

現在までの研究から、免疫不全症や一部のウイルス感染症がリンパ腫罹患のリスク要因として明らかになっています。一方で、女性のほうが男性よりも罹患率が低く、女性ホルモンであるエストロゲンのリンパ腫罹患への予防効果が示唆されています。しかし、初潮や出産など女性の生殖関連要因とリンパ腫との関連について、これまで多くの報告がされていますが、一貫した結果が得られていませんでした。また、過去の研究結果は欧米諸国から報告されているものが多く、日本人を対象とした女性関連要因とリンパ腫との関連については、大規模な疫学研究からは明らかにされていませんでした。そこで、私たちは日本人女性を対象として、女性の生殖関連要因とリンパ腫罹患リスクの関連について検討しました。

研究開始時のアンケート調査における月経や出産に関する情報を用いて、出産経験、出産人数、初産年齢、授乳経験、初潮年齢、閉経年齢、生殖可能期間(初潮から閉経までの年数)、閉経の種類、ホルモン剤使用の有無、月経周期の長さと、その後のリンパ腫罹患との関連について分析しました。本研究の追跡調査中に、176人の女性にリンパ腫罹患が確認されました。

 

出産経験がある女性、初潮年齢が高い女性、月経周期が短い女性はリンパ腫罹患リスクが上昇

リンパ腫罹患に関連する他の要因の影響を統計学的に調整した分析の結果、出産経験がない女性と比較すると、出産経験がある女性ではリンパ腫罹患リスクが高くなっていました(図1)。月経に関連して、初潮年齢が低いグループに比べて、初潮年齢が高いグループではリンパ腫罹患リスクが高い傾向がみられました。月経周期が平均の長さのグループに比べて、月経周期が短いグループではリンパ腫罹患リスクが高くなっていました。

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この研究から明らかになったこと

本研究の結果から、出産経験がある女性や初潮年齢が高い女性で、リンパ腫罹患のリスクが高いことが示されました。女性は妊娠期間中のエストロゲン濃度上昇によって一時的に抗体の産生機構が活発になります。この免疫機能の変化がリンパ腫罹患リスクに関与しているのではないかと考えられています。また、妊娠していない女性に比べて妊娠期間中は悪性度の高いリンパ腫や女性生殖器リンパ腫の罹患が多いと報告されています。そのため、出産経験がある女性はリンパ腫罹患リスクが高いのではないかと考えられます。また、初潮年齢が高い女性ではエストロゲンや様々なホルモンへの曝露が遅いためにリスクが上がるのではないかと考えられています。
しかし、これらの先行研究は結果が一致しておらず、メカニズムも十分に明らかになっていません。また、月経周期の長さとリンパ腫罹患リスクとの関連を分析した先行研究はないため、さらなる研究が必要です。

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