多目的コホート研究(JPHC Study)
身体活動と腎がん・膀胱がん・腎盂尿管がん罹患との関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、研究開始から5年後のアンケートに回答した、45~74歳の約7万6千人の男女を平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、身体活動と腎がん・膀胱がん・腎盂尿管がん罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたのでご紹介します。(Br J Cancer.2019 Mar;120(5):571-574)
世界がん研究基金によると、身体活動は、大腸がんのリスクを確実に、乳がんと子宮体がんのリスクをほぼ確実に減少させることが報告されています。一方、腎がんや膀胱がんについては、複数の研究をまとめたメタアナリシスにおいて、身体活動がこれらのがんのリスクを減少させるという報告がありますが、アジアでの研究は限られており、よくわかっていません。欧米と日本では、肥満度などの違いなどにより、身体活動が与える影響が異なる可能性が考えられます。そこで、私たちは、身体活動がその後の腎がん・膀胱がん・腎盂尿管がんリスクに影響を与えるかどうかを調べました。
身体活動量は、仕事や余暇の運動を含めた1日の平均的身体活動時間を、筋肉労働や激しいスポーツをしている時間、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間に分けて調査しました。これらの各身体活動を運動強度指数MET(Metabolic equivalent)値に活動時間をかけた「METs・時間」スコアに換算して合計することにより、対象者1人1人の平均的な身体活動量を求めました。
身体活動は泌尿器系がんと関連なし
本研究の追跡期間中(約15.1年)に、202人の腎がん、373人の膀胱がん、83人の腎盂尿管がん罹患が確認されました。 研究開始から5年後に行ったアンケート調査の回答から、身体活動量レベルを低・中・高の3グループに分類し、低いグループを基準とした場合の、中・高グループにおける腎がん・膀胱がん・腎盂尿管がんのリスクを算出しました。また、余暇の運動頻度を3グループ(週1日未満、週1~2日、週3日以上)に分類し、週1日未満を基準とした場合の、他のグループの罹患リスクも算出しました。その結果、身体活動量と余暇の運動頻度のどちらも、腎がん・膀胱がん・腎盂尿管がんのリスクに関連はみられませんでした(図)。
図.身体活動と腎がん・膀胱がん・腎盂尿管がんとの関連
※年齢、性別、地域、喫煙、飲酒、BMI、糖尿病の既往、エネルギー摂取量、コーヒー摂取頻度で統計学的に調整。
この研究について
今回の研究からは、日本人において、身体活動が腎がん・膀胱がん・腎盂尿管がんのリスクと関連があることは確認されませんでした。身体活動が腎がんや膀胱がんなどの泌尿器系のがんに予防的に作用することが報告されている、欧米からの研究と、今回の研究結果は異なりました。身体活動が適正体重の維持を促すことにより、がんの予防効果が報告されていますが、日本人は欧米人よりも肥満度が低いため、身体活動による予防効果が欧米人よりも少なかった可能性があります。また、日本人の喫煙率は欧米人よりも高いことが報告されており、喫煙による悪影響が身体活動の予防的な作用を打ち消した可能性も考えられます。
本研究では、過去の研究と比べて比較的大規模な研究ですが、泌尿器系がんの罹患者が少なかったことから、さらなる研究が必要です。