多目的コホート研究(JPHC Study)
食品摂取の多様性と死亡リスクとの関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の方々のうち、研究開始から5年後に行った食事調査票に回答した男女約8万人を平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、食品摂取の多様性と死亡リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Eur J Clin Nutr.2020 Jan;74(1):54-66)。
食品摂取の多様性
諸外国にたがわず、日本の食生活指針においても「多様な食品を組み合わせて、食事をバランスよく摂取する」ことが推奨されています。しかしながら、食品摂取の多様性と死亡リスクとの関連に関しては明らかになっていません。そこで、研究開始から5年後に行った食事調査票アンケートの結果を用いて、アルコールを除いた133項目の食品・飲料について、対象者の方が1日に何種類摂取しているのか算出し、その後の死亡リスクとの関連を調べました。また、魚、肉、野菜、果物、大豆製品などの個別の食品群についても、同様の検討を行いました。
女性では多様な食品の摂取は全死亡、循環器疾患死亡、その他の死亡リスクの低下と関連
1日に摂取する食品数によって対象者を5つのグループに分類し、その後約14.9年の追跡期間中に発生した死亡(全死亡、がん死亡、循環器疾患死亡、その他の死亡)との関連を調べました。その結果、女性では1日に摂取する食品の種類が最も少ないグループに比べて、最も多いグループで、全死亡のリスクは19%、循環器疾患死亡のリスクは34%、その他の死亡のリスクは24%低下していました(図1)。一方、男性では食品摂取の多様性と死亡との関連はみられませんでした(図1)。
※年齢、地域、BMI、アルコール摂取、喫煙、総エネルギー摂取、身体活動、職業、同居者の有無を統計学的に調整
男性では果物の摂取の多様性が、女性では大豆製品の摂取の多様性が全死亡リスクの低下と関連
男性では果物の摂取の多様性が、女性では大豆製品の摂取の多様性が全死亡リスクの低下と関連
男性では摂取する果物の種類が多いほど、女性では摂取する大豆製品の種類が多いほど全死亡のリスクが低下する傾向がみられました。男性では摂取する肉類の種類が多いほど全死亡のリスクが上昇する傾向がみられました(図2)。男女とも、魚、野菜摂取の多様性と全死亡リスクとの関連はみられませんでした(図なし)。
※年齢、地域、BMI、アルコール摂取、喫煙、総エネルギー摂取、コーヒー摂取、緑茶摂取、身体活動、職業、同居者の有無、他の食品グループの摂取を統計学的に調整
この研究について
今回の研究では、女性において1日に多様な種類の食品を摂取することが全死亡、循環器疾患死亡、その他の死亡リスクの低下と関連するという結果が得られました。一方、男性では食品摂取の多様性と死亡との関連はみられませんでした。男性は女性に比べてアルコールの摂取頻度や喫煙率が高いため、これらの要因を統計学的に調整しても、その影響が上回り関連がみえにくくなった可能性が考えられます。
男性では、摂取する肉類の種類が多いほど全死亡のリスクが上昇する傾向がみられました。摂取する肉類の種類が多い人では動物性のたんぱく質摂取が多くなることが報告されており、このことが死亡リスクの上昇に関連していた可能性があります。本研究では、野菜摂取の多様性は全死亡リスクと関連が認められませんでした。野菜は、調理されたり、その他の料理のつなぎに使われたりすることが多く、摂取する種類の算出に誤りが起きやすいことが原因のひとつかもしれません。日本人は大豆製品を多く摂取しますが、女性では大豆製品も摂取する種類が多いほど全死亡リスクの低下がみられました。
多様な食品を摂取することは、食品や栄養に関する特別な知識がなくても実践が可能です。多様な食品をバランスよく摂取することが、全死亡リスク、循環器疾患死亡リスク、その他の死亡リスクの低下につながる可能性があります。
なお、本研究で用いた食事の多様性は、食事調査票アンケートの133項目から算出されていますが、1日に同じ食品を数回摂取しても1回と数えられます。食事の多様性と死亡リスクに関するエビデンスを蓄積するために、さらなる研究が必要です。