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現在までの成果

血中性ホルモン濃度と大腸がん罹患との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、40~69歳の女性約4万人を平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、血中性ホルモン濃度と大腸がん罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(International Journal of Cancer 2019年5月ウェブ先行公開)

大腸がんは、世界でも最も罹患率が高いがんのひとつですが、女性の罹患率は男性より低いことがわかっています。経口避妊薬の服用やホルモン補充療法を受けることで大腸がん罹患リスクを抑えられるという報告もあり、女性ホルモンであるエストロゲンが罹患率の差をもたらしている可能性も考えられます。しかし、閉経後女性を対象として血中エストロゲンと大腸がん罹患の関連を調べた研究では、結果は一貫していません。日本を含むアジア諸国では、大豆の摂取量が高く、複数の研究を統合したメタアナリシスでは、統計学的有意ではなかったものの、大豆またはイソフラボンの摂取により、エストロゲン濃度が14%上昇していた(p=0.07)ことが報告されており、血中性ホルモンと大腸がん罹患の関連に影響を与えている可能性も考えられます。そこで、本研究では、閉経後女性を対象とし、血中性ホルモンと大腸がん罹患の関連を検討しました。

 

保存血液を用いた、コホート内症例対照研究

多目的コホート研究の5年後調査アンケートに回答のうえ、健診などの機会に血液を提供いただいた45~74歳の女性約1万2千人の方々を対象に追跡調査を行いました。約12年の追跡の結果、197人が大腸がんと診断されました。大腸がんになった方1人に対し、大腸がんにならなかった方から年齢・居住地域・採血日・採血時間・空腹時間の条件をマッチさせた2人を無作為に選んで対照グループに設定しました。そのうち、閉経後女性のみ(症例群: 185人、対照群: 361人)を今回の研究の対象者としました。
今回の研究では、保存血液を用い、エストラジオール、性ホルモンの輸送タンパクである性ホルモン結合グロブリン(Sex hormone-binding globulin (SHBG))、プロゲステロンおよびテストステロン濃度を測定しました。今回測定したテストステロンは、SHBGと結合しているテストステロンと考えられているため、計算式(Vermeulen et al.1999, Shore et al. 2002)を用いて結合していない遊離テストステロンを算出しました。

 

テストステロン濃度が高いグループで大腸がんリスクが上昇

それぞれのホルモン濃度の値によって低値、中間値、高値までの3つのグループに分け、大腸がんリスクを比較しました。エストラジオール濃度が高かったグループで、低いグループと比較し、大腸がんリスクが高くなる傾向が見られましたが、測定値に定量下限値以下の値が多く、95%信頼区間も広かったために統計学的には有意な関連ではありませんでした(傾向性p=0.09)。SHBG、およびプロゲステロンと大腸がん罹患の間には統計学的有意な関連が認められませんでしたが、テストステロン濃度が高かったグループで、低かったグループと比較し、統計学的有意に大腸がんリスクが上昇していました (傾向性P=0.03)(図1)。血中エストラジオールやSHBG濃度の影響を統計学的に取り除いても正の関連はかわりませんでした。また、遊離テストステロン濃度が高かったグループにおいても、有意ではありませんでしたが、テストステロンと同様に大腸がんリスクが上昇する傾向が見られました(図なし)。

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イソフラボン摂取が低い場合、SHBG濃度が高いグループで大腸がんリスクが上昇

イソフラボン摂取量が高いグループと低いグループ(中央値で分類)に分け、SHBG濃度と大腸がんリスクの関連を比較したところ、イソフラボン摂取量が低いグループで、有意に大腸がんリスクが上昇していました(図2)。イソフラボン摂取量が高いグループでは、有意ではなかったものの、大腸がんリスクが減少する傾向を示しました(図2)。

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なぜテストステロンが高いと大腸がんになりやすい?

本研究では、テストステロン濃度が高い場合、大腸がんリスクが上昇することが分かりました。これまでの研究では、テストステロン濃度と大腸がんリスクの間に有意な関連を認めておらず、閉経後女性を対象として行った研究では初めての報告です。動物実験の結果から、テストステロン投与により大腸腺腫の発生を促進する可能性や、アンドロゲン受容体の遺伝子配列が大腸がん患者と健常者で異なることなどが報告されていることから、テストステロンが大腸がんの発生に関係していることが示されています。また、テストステロンの分泌はアロマターゼ(テストステロンがエストラジオールに変換される際の酵素)の働きによって調節されているため、エストラジオールの生成が増えることにより、テストステロンの分泌が制御されます。エストラジオール濃度が低いことにより、テストステロンが多く分泌された可能性が考えられますが、詳しいメカニズムの解明には、さらなる研究が必要です。 また、イソフラボン摂取が低いグループでSHBG濃度と大腸がんリスクに有意な正の関連が認められ、イソフラボンの摂取量により、SHBG濃度と大腸がんリスクの関連は異なることが示唆されました。SHBG濃度が高いグループでは、SHBGに結合していないエストラジオールの濃度が低いと考えることができます。先行研究より、イソフラボンを多く摂取することで、エストラジオール濃度が上昇することが示唆されているため、イソフラボン摂取量が高いことにより、SHBG濃度が高い場合でも、大腸がんリスクが減少した可能性が考えられます。

血中性ホルモンと大腸がんとの関連は、まだ報告が少ないので、今後の更なる研究が必要です。

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っております。 

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