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多目的コホート研究(JPHC Study)

光干渉断層計で測定した網膜の厚さと認知症との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に長野県佐久保健所管内の南佐久郡8町村(1990年時点)にお住まいでアンケートに回答した40~59歳の約1万2千人のうち、平成26-27年(2014-15年)に行った「目とこころの検診」に参加した1,293人のデータにもとづいて、光干渉断層計(OCT)で測定した網膜の厚さと認知機能との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Ophthalmology.2020 Jan;127(1):107-118)。

海外のある研究では、認知症の3分の1は、その危険因子をとりのぞくことで予防されると推計されており、正常と認知症の中間といわれる軽度認知障害や、認知症を、早期に発見して予防につなげることが重要であると考えられています。しかし、軽度認知障害や認知症の診断にはMRIなど多くの検査が必要であるため、簡便な検査で初期の変化を検出できるバイオマーカーの開発が期待されています。

網膜は眼球の後ろ側にある薄い膜状の組織で、光や色を感じるのに重要なたくさんの神経細胞と、それにつながる神経線維からできており、脳と多くの共通点を持っています。また、アルツハイマー型認知症患者では、脳内に蓄積するアミロイドβタンパクが網膜の神経節細胞にも蓄積することが報告されています。そのため、網膜の厚さと認知機能に関連がある可能性が考えられています。

海外の複数の研究をまとめたメタアナリシスでは、網膜の厚さ(網膜厚)の減少と認知機能の低下が関連していることが報告されています。しかしながら、この報告で測定された網膜厚の部位は、視神経乳頭という領域の厚さであり、神経細胞が多く、より加齢変化が起きやすいと考えられる、黄斑部の網膜厚との関連を検討した研究はほとんどありませんでした。そのため、私たちは、「目とこころの検診」において、光干渉断層計(OCT)によって黄斑部と視神経乳頭周囲の網膜厚を両方測定し、これらの測定値と精神科医により診断された軽度認知障害や認知症との関連を検討しました。

 

黄斑部の網膜の厚さは認知症と関連している

「目とこころの検診」に参加した方の中で、うつ病がある方、網膜疾患を有する方、OCTでの測定が困難だった方を除いた975人のうち、38人が認知症と診断されました。本研究では、黄斑部の網膜厚(全層)が薄いほど、認知症のリスクが高いという関連(図1左)を認め、特に、神経細胞が集まる層(網膜神経節細胞複合体層)の厚さと認知症に関連(図1中央)がみられました。一方、視神経乳頭周囲の網膜の厚さと認知症との関連は認めませんでした(図1右)。

図1 網膜の厚さと認知症との関連

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この研究からわかったこと

本研究では、地域住民において網膜の厚さが認知症と関連し、特に、黄斑部の網膜の厚さに顕著な影響が現れる可能性が示されました。アルツハイマー病における神経変性の変化が、黄斑部の網膜神経節細胞に反映されやすいという報告があり、OCTの画像で得られた黄斑部の網膜の薄さが認知症に関係している理由と考えられます。
しかし、今後、網膜の厚さが認知症早期発見のバイオマーカーとして臨床に応用するためには、認知症の重症度や病型も考慮したデータの蓄積や、経時的な網膜の厚さの変化が認知症の進行と関係するかなど、追跡データに基づいた研究が必要です。

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