多目的コホート研究(JPHC Study)
ヘリコバクター・ピロリ菌感染と膵がんリスクとの関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、がんになっておらず、血液を提供してくださった約2万人を、平成22年(2010年)まで追跡した調査結果にもとづいて、ヘリコバクター・ピロリ菌感染と膵がん罹患リスクとの関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Sci Rep. 2019 Apr 15;9(1):6099)。
先行研究より、年齢、喫煙、糖尿病の既往、果物や野菜の摂取不足、日常的な運動不足などが膵がんのリスク要因として報告されていますが、その他の要因についてはよくわかっていません。近年、胃がん罹患の最大のリスク要因であると考えられているヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)感染が、膵がんにも関係しているのではないかと示唆されています。そこで、私たちは日本人を対象として、ピロリ菌感染と膵がん罹患リスクとの関連について検討しました。
研究開始時にご提供いただいた血液を用いて、ピロリ菌感染状況および萎縮性胃炎の有無と、その後の膵がん罹患との関連について調べました。本研究の追跡調査中に、119人(男性:52人、女性:67人)が膵がんに罹患しました。膵がん罹患に関連する他の要因(年齢、性、地域、身体活動、飲酒、喫煙、BMI、膵がんの家族歴、糖尿病歴)の影響を統計学的に調整した分析の結果、ピロリ菌感染および萎縮性胃炎の有無は、膵がん罹患リスクと関連していませんでした(図)。喫煙状況別に検討したところ、喫煙者では、萎縮性胃炎があることで膵がんのリスクが高くなっていました(図なし)。
図:ピロリ菌感染および萎縮性胃炎の有無と膵がん罹患リスク
この研究について
本研究の結果から、ピロリ菌感染や萎縮性胃炎は日本人において、膵がん罹患には関連しないことが示唆されました。ピロリ菌感染や萎縮性胃炎と膵がんとの関連については、まだ研究数が不十分であること、研究により結果が一貫していないこともあり、さらなる研究が必要と考えられます。