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多目的コホート研究(JPHC Study)

Non-HDLコレステロールと循環器疾患発症との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは,いろいろな生活習慣と,がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし,日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)と平成7年(1995年)に秋田県横手,岩手県二戸,長野県佐久,茨城県水戸,新潟県長岡,高知県中央東,長崎県上五島,沖縄県宮古の8保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方のうち,循環器疾患(脳卒中と心筋梗塞)の既往を有さず,かつnon-HDLコレステロールを計算するために必要な血中総コレステロールとHDLコレステロールを測定した30,554人を対象に,non-HDLコレステロール濃度と脳卒中ならびに虚血性心疾患の発症との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Atheroscler Thromb.2020 Apr 1;27(4):363-374)。

Non-HDLコレステロールは,総コレステロールから善玉(HDL)コレステロールを引いた値で,これまでの研究から,その値が高い人ほど虚血性心疾患の発症リスクが高まることが知られています。また,日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2017年版)で,その基準値が採用されています。しかし,脳卒中の発症リスクとの関連に関しては,結果が一貫しておらず,さらなる研究の必要性が指摘されていました。そこで,私たちは15年間にわたる前向き研究によりnon-HDLコレステロールの血中濃度と脳卒中ならびに虚血性心疾患発症との関連を調べました。

 

Non-HDLコレステロールと脳卒中は男性でU字型の関係。虚血性心疾患の発症リスクは男女とも直線的に増大

男女別にnon-HDLコレステロール濃度が最も低い人から高い順に並び替え,各群の人数が等しくなるように5群に分け,濃度の低い方から第1五分位(Q1),第2五分位(Q2),第3五分位(Q3),第4五分位(Q4),第5五分位(Q5)としました。Non-HDLコレステロール濃度と関連のある喫煙者割合や飲酒頻度など他の危険因子による影響を統計学的な方法によって調整して,一番濃度が低いQ1を基準とした場合の、他の群の脳卒中と虚血性心疾患の発症リスクを比較しました。まず,図1に男女別に虚血性心疾患と脳卒中,ならびに脳卒中病型別(クモ膜下出血,脳内出血,脳梗塞)の年齢調整済み発症率を示しました。発症率は,虚血性心疾患よりも脳卒中が高く,虚血性心疾患ではQ1~Q5にかけて男女とも右上がり,脳卒中は男性でU字型,また脳内出血は右下がりになりました。図2の発症リスクに関しては,脳卒中は男性でQ4のハザード比が最も低値となり,non-HDLコレステロールと脳卒中発症リスクはほぼU字型の関連を認めました。女性でもQ4のハザード比はQ1に比べ統計学的に有意に低い結果でしたが,U字型の関連性は明確ではありませんでした。一方,虚血性心疾患の発症リスクは,男女ともにnon-HDLコレステロール濃度の上昇とともに直線的に上昇しました。

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男性において,Non-HDLコレステロールの高値は脳内出血のリスクを下げ,皮質枝系脳梗塞の発症リスクを上昇させる

脳卒中をCT等の画像診断に基づき,くも膜下出血,脳内出血,ラクナ脳梗塞(脳の奥深くにある細い血管がつまる脳梗塞),皮質枝系脳梗塞(脳の太い血管の粥状動脈硬化が原因でつまる脳梗塞),脳塞栓(主に心臓でできた血栓が脳に飛んでつまる脳梗塞)に分けて,non-HDLコレステロール濃度とそれらの発症リスクとの関連を検討しました(図3)。その結果,男性では,多変量調整後にもQ5で脳内出血発症リスクが統計学的有意に低下したのに対し,皮質枝系脳梗塞では統計学的有意に上昇していました。

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まとめ

Non-HDLコレステロールは,総コレステロールから善玉(HDL)コレステロールを除いた値です。簡便で,かつ食後採血でも値が左右されないことから,中性脂肪を含めたいわゆる悪玉の総和の指標として優れていると考えられています。
 本研究は,男女ともnon-HDLコレステロール濃度の上昇にともない虚血性心疾患の発症リスクが直線的に上昇することを示しました。この結果は予想された通りでしたが,脳卒中では,男性において全体としてU字型の関係がみられました。関連性は脳卒中の病型によって異なり,脳内出血ではnon-HDLコレステロール濃度の上昇とともに発症リスクが低下しました。一方,脳卒中の中でも皮質枝系脳梗塞という脳内の比較的太い血管の動脈硬化による病型では発症リスクが上昇することが確かめられました。これらの結果は,総コレステロールと脳卒中の各病型との間で認められてきた関係とほぼ同じでした。女性ではnon-HDLコレステロールと脳卒中発症リスクの関連は明らかではありませんでした。
研究結果の解釈にあたって,non-HDLコレステロールの評価が研究開始時のみで,その後の変化を考慮できていないことには注意を要します。また,健診受診者という比較的健康意識の高い集団を対象とした解析結果であること,対象地域に都市部が含まれていないことなども解釈上の注意点と言えます。
Non-HDLコレステロール濃度が高い場合の対策として,総コレステロールやLDLコレステロールと同様,生活習慣の是正が必要です。また,男性ではnon-HDLコレステロールの濃度が低い場合に脳内出血のリスクが上昇することも確認されました。脳卒中との関連を考え合わせれば,一概にnon-HDLコレステロールの濃度は低い方がよいというわけではなく,適正な値を保つことがよいと考えられています。

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