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多目的コホート研究(JPHC Study)

女性関連要因と認知機能障害との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に長野県佐久保健所管内の南佐久郡8町村(1990年時点)にお住まいでアンケートに回答した40~59歳の約1万2千人のうち、2014年~2015年に行った「こころの検診」に参加した女性747人のなかで、「うつ」と診断された人などを除外した670人のデータにもとづいて、女性関連要因と認知機能障害(軽度認知障害と認知症)との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Maturitas、2019年10月公開

認知症有病率は、本邦では高齢化を背景に急速に増加しており、早期に発見し予防につなげることが重要です。女性ホルモン(エストロゲン)は、記憶に関係する海馬という場所の神経伝達機能を活性化する作用が動物実験で報告されており、人の疫学調査でも女性ホルモンと認知機能との関連が報告されていますが、結果が一致しておらず、よくわかっていません。エストロゲンの血中濃度は、月経周期や妊娠・出産・閉経などにより影響を受けることから、これらの女性関連要因が、その後の認知機能障害と関連しているかどうかを検討しました。

研究開始時のアンケート調査から、初潮年齢、月経規則性、月経周期、出産回数、初産年齢、授乳経験、女性ホルモン剤服用経験、閉経の種類と年齢、初潮から閉経までの期間と、その後の認知機能障害との関連を調べました。軽度認知障害と認知症の診断は、記憶やその他の認知機能に関する検査と、医師の判定により行われ、227人(軽度認知障害196人及び認知症31人)が認知機能障害と診断されました。

 

初潮から閉経までの期間が長いと、認知機能障害のリスクが低くなる。

認知機能障害のリスクは、初潮から閉経までの期間が長いほど低くなり、38年以上の女性は33年以下と比べて38%低くなりました(図)。軽度認知障害に限定しても、結果は変わりませんでしたが、認知症に限定すると、予防的関連はみられなくなりました(図なし)。

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図. 女性関連要因と認知機能障害との関連


年齢、体格指数(Body Mass Index)、教育歴、喫煙、余暇運動、既往歴(高血圧、糖尿病、うつ)で統計学的に調整
*は統計学的有意(P<0.05)

 

この研究から得られたこと

今回の研究では、初潮から閉経までの期間が長いことが、認知機能障害のリスクの低下と関連があることが示されました。この関連は、エストロゲンにさらされる期間が長いことが、認知機能障害に予防的に働く可能性を示唆しています。認知症に限った分析では予防的な関連は認められませんでしたが、認知症と診断された女性が31名と少ないため、今後症例数を増やして検討する必要があります。

本研究は、日本人で、女性関連要因と認知機能障害との関連を明らかにした初めての研究です。女性関連要因は時代や社会的背景などで変化しますので、今後も研究結果の蓄積が必要です。

 

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