多目的コホート研究(JPHC Study)
女性生殖関連要因と外因性死亡リスクとの関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田、東京都葛飾の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、がんや循環器疾患になっていなかった40~69歳の女性約4万人を、平成26年(2014年)まで追跡した調査結果にもとづいて、女性生殖関連要因と自殺や事故などの外因による死亡リスクとの関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Scientific reports 2019年10月公開)。
出産や閉経など女性の生殖関連要因と健康や死亡との関連についてこれまで欧米諸国から多くの報告がされていますが、自殺や事故などの外因による死亡との関連について、特に日本人では十分に明らかにされていませんでした。そこで、私たちは日本人女性を対象として、女性の生殖関連要因と外因による死亡リスクの関連について検討しました。
研究開始時のアンケート調査における月経や出産に関する情報を用いて、出産経験、出産人数、授乳経験、初産年齢、初潮年齢、閉経年齢、生殖可能期間(初潮から閉経までの年数)、月経周期、ホルモン剤使用の有無と、その後の外因性死亡(自殺、事故、全外因性死亡(何らかの外因による死亡))との関連について分析しました。本研究の追跡調査中に、8,477人の女性の死亡が確認されました。そのうち外因による死亡は328人で、45%が自殺、51%が事故によるものでした。
出産経験がある女性は自殺による死亡リスクが低い
死亡に関連する他の要因の影響を統計学的に調整した分析の結果、自殺について、出産経験がない女性と比較すると、出産経験がある女性では自殺による死亡リスクが47%低くなっていました(図1)。事故について、授乳経験がある女性では経験のない女性に比べて事故で死亡するリスクが37%低く、初潮年齢が遅い女性ではリスクが増加する傾向がみられました(図1)。また、全外因性死亡について、授乳経験がない女性と比較すると、授乳経験のある女性では全外因性死亡リスクが33%低く、初潮年齢が遅い女性ではリスクが増加する傾向がみられました(図1)。一方、初産年齢や閉経年齢、生殖可能期間、月経周期やホルモン剤の使用について関連はみられませんでした。分析対象を閉経前後で分けてもこれらの結果は大きくは変わりませんでした。
図1.女性生殖関連要因と外因による死亡リスク
※年齢、地域、BMI、喫煙、飲酒、ストレスレベル、同居有無、既往歴(がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、高血圧)、月経状況、閉経年齢、ホルモン剤の使用で統計学的に調整
この研究から明らかになったこと
先行研究と同様に、本研究でも出産経験がある女性は、自殺による死亡のリスクが低いことが明らかになりました。これらのメカニズムは十分に明らかになっていませんが、親であることによる責任感や自己肯定感(自分の価値を肯定する感情)、子供を通じた社会との関わりが自殺に予防的な効果があるのではないかと考えられています。
これまで授乳経験と外因による死亡との関連について報告はなく、メカニズムは明らかではありませんが、今後は授乳経験の有無に加え、頻度や期間などの詳細な情報による研究が必要です。
初潮年齢が遅いことによって事故で死亡するリスクが上昇するという関連についてはまだ先行研究がありません。女性の生殖関連要因と外因による死亡リスクに関する研究は少ないため、今後もさらなる研究により根拠の蓄積をしていくことが必要です。