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現在までの成果

複数の血中炎症関連マーカーと食道扁平上皮がん罹患との関連について

 ―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立つような研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所管内(呼称は2020年現在)にお住まいだった約2万3千人の方を、平成22年(2010年)末まで追跡した結果に基づいて、複数の血中炎症関連マーカーと食道扁平上皮がん罹患との関連について検討しました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Int J Cancer. 2019年10月web先行公開)。

食道がんの組織型には、大きく扁平上皮がん、腺がんがあります。国際がん研究機関のデータによると、食道扁平上皮がんの罹患は、食道がん全体のうち90%を占めると報告されています。慢性炎症は重要な発がんメカニズムの一つと考えられているため、今回の研究では炎症に関与するサイトカイン、ケモカイン、可溶性受容体など複数の血中炎症関連マーカー濃度を一度に測定する技術を用い、健常集団から収集された血液を用いて、92の炎症関連マーカーの濃度と、その後の食道扁平上皮がん罹患との関連を調べました。

 

保存血液を用いた、症例コホート研究

多目的コホート研究のベースライン調査アンケートに回答のうえ、健診などの機会に血液を提供してくださった40~69歳の男女約2万3千人の方々を対象に追跡調査を行いました。研究開始から平成22年(2010年)末までに66例の食道扁平上皮がんの罹患が確認されました。これに対し、同じ約2万3千人の方々の中から、410人を無作為に選んで対照グループに設定しました。今回の研究では、がんに罹患する前の保存血液を用いて、炎症関連マーカー濃度の測定を行いました。

 

12の炎症関連マーカーと食道扁平上皮がん罹患が関連

92の炎症関連マーカーのうち、20のマーカーでは測定値が得られませんでした。残りの72のマーカーのうち、12のマーカー(FGF19, ST1A1, STAMBP, AXIN1, CASP8, NT3, CD6, CDCP1, CD5, SLAMF1, OPG, CSF1)の血中濃度について、食道扁平上皮がんリスク上昇との関連が認められました(傾向性P値 < 0.05)(図)。一方、7つのマーカー(CXCL6, CCL23, CXCL5, TGFA, CXCL1, OSM, CCL4)については、リスク低下の関連を認めました。これらのうち、複数のマーカーを一度に調べているため統計学的に有意な関連が出やすいことを考慮した解析(false discovery rateで調整した解析)でも、5つのマーカー(FGF19, CASP8, STAMBP, ST1A1, CCL-4)では統計学的に有意な関連を認めました。すでにがんが発生していることで炎症関連マーカーが変化している影響を除くため、研究開始から5年未満と5年以降の期間に分け罹患リスクの検討を行いましたが、結果は変わりませんでした。

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図 血中炎症関連マーカーと食道扁平上皮がん罹患との関連

*72の炎症関連マーカーのうち統計学的に有意な関連がみられたマーカーのみ図示。
*各炎症関連マーカーの血中濃度の四分位カテゴリの順位が一つ上がるときに、食道扁平上皮癌罹患のハザード比が何倍になるかを示す。
*年齢、性、地域、喫煙習慣、飲酒習慣で統計学的に調整した。

 

まとめ

本研究では、19の血中炎症関連マーカーの濃度と食道扁平上皮がんとの間に関連が認められました。この結果は長期間の追跡によるもので、さらに、採血からの経過年数によらず同様の関連性が見られたことから発がんのメカニズムを反映した結果といえます。とくに、統計学的に厳しい判定をした場合でも、5つのマーカー(FGF19, CASP8, STAMBP, ST1A1, CCL-4)では有意な関連を認め、中でもCASP8, STAMBP, ST1A1の三つのマーカーの濃度はお互いに強く相関しており、共通のメカニズムに関与している可能性が示唆されました。複数の血中炎症マーカーと食道腺がんとの関連を調べた別のコホート研究では、統計学的に有意な関連は見られませんでした。このことは、食道扁平上皮がん、腺がんでの異なる発がんメカニズムを反映したものと考えられます。 研究開始から5年以降に食道扁平上皮がんと診断された症例に絞った解析でも同様の結果が得られたことは、食道扁平上皮がんの罹患を予測するマーカーとなる可能性を示すものですが、他の集団でも同じような結果が得られるかどうかさらなる検討が必要です。

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っております。 

 

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