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現在までの成果

ヘリコバクター・ピロリ菌抗体価-陰性高値と胃がんリスクとの関連について

 ―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所(呼称は2020年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、がんになっておらず、血液を提供してくださった約2万人を、平成25年(2013年)まで長期間追跡した調査結果にもとづいて、ヘリコバクター・ピロリ菌抗体価と胃がん罹患リスクとの関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention 2019年12月ウェブ先行公開)。

ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)抗体価と血中ペプシノゲン値は、その組み合わせにより将来胃がんになるリスクを層別化できる検査として注目されています。ピロリ菌抗体価は、最近まで10U/mLを基準として、10未満が陰性、10以上が陽性と判定されていました。10以上では将来胃がんに罹患するリスクが高いことが報告されています(JPHCのピロリ抗体価と胃がんリンク)。最近まで、陰性と判定されていた10未満のグループの中でも3-9のいわゆる「陰性高値」の人は、3未満の人と比べて将来胃がんに罹患するリスクが高くなるのではないかと推測されており、2016年から、陰性と陽性を分ける基準が3に変更されました。しかしながら、この陰性高値が長期的にどのように胃がんリスクに影響を与えるのかどうかを検討した疫学研究はありませんでした。そこで、私たちは日本人を対象として長期追跡し、ピロリ菌抗体価、特に陰性高値と胃がんリスクとの関連について検討しました。

研究開始時にご提供いただいた血液を用いて、ピロリ菌抗体価および萎縮性胃炎の状況とその後の胃がん罹患との関連について調べました。この研究では、ピロリ菌抗体価により、3以下を陰性、3より大きく10未満を陰性高値、10以上を陽性と分類しました。萎縮性胃炎については、血中ペプシノゲンⅠ及びⅡの値から、無し、軽度、中等度、高度に分類しました。平均18年にわたる追跡中に、595人(男性:370人、女性:225人)が胃がんに罹患しました。胃がん罹患に関連する性、年齢、地域、喫煙、胃がん家族歴、塩辛い食品の摂取頻度などの影響を統計学的に調整し、ピロリ菌抗体価によるその後の胃がん罹患リスクを推計しました。

 

胃がんリスクはピロリ菌抗体陰性高値でも高くなるが、萎縮性胃炎があるとピロリ菌抗体価にかかわらず高い

その結果、胃がんにかかるリスクはピロリ菌抗体価が陰性の人と比較して、陰性高値では2.8倍、陽性では6.5倍、統計学的に有意に高くなっていました(図)。
さらに、萎縮性胃炎の程度を組み合わせてみたところ、萎縮性胃炎が無いか軽度の場合(青色)、ピロリ菌抗体価が陽性の人で胃がんリスクが高くなり、陰性高値の人でもリスクが少し高くなりましたが顕著な増加ではありませんでした。萎縮性胃炎が中等度または高度の場合(赤色)、ピロリ菌抗体価にかかわらず胃がん罹患リスクは萎縮が無いか軽度の場合と比較して高くなっていました(図)。

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今回の結果から、ピロリ菌抗体価が陰性高値の人では、陰性の人と比較して胃がんリスクは高くなりましたが、そのリスクには萎縮性胃炎の程度が大きく影響することがわかりました。ピロリ菌に感染して萎縮性胃炎が高度になると、ピロリ菌が消失して陰性になることが知られています。陰性高値の人にはこのような人も含まれていると考えられ、ピロリ菌抗体価は陽性でなくても、萎縮性胃炎が進行していたことが、胃がんリスクの増加につながったものと推察されます。したがって、ピロリ菌抗体価とともに萎縮性胃炎の程度を確認して、ご自身が高リスクなのかどうかを知ることが重要です。なお、本研究の開始時点である1993年においては、ピロリ菌の薬剤による除菌が一般的ではなかったため、それによるピロリ菌抗体価の低下は例外的と考えられます。除菌歴がある人のピロリ菌抗体価と胃がんとの関連については、今後の研究課題になります。

胃がんは早期発見・早期治療による予後がよいがんであることが知られています。胃がんのその他のリスク要因(喫煙、高塩分摂取、野菜・果物不足)に気をつけるとともに、定期的に胃がん検診を受け、早期発見・早期治療につとめましょう。

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