多目的コホート研究(JPHC Study)
食物繊維摂取量と死亡リスクの関連
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、平成10年(1998年)に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)にお住まいだった45~74歳の方々のうち、食事調査アンケートに回答し、がん、循環器疾患になっていなかった約9万人を、平成28年(2016年)まで追跡した調査結果にもとづいて、食物繊維摂取量とその後の死亡リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Am J Nutr.2020 May 1;111(5):1027-1035)。
食物繊維は健康に良いことが知られていますが、摂取量が不足しがちな栄養素です。これまでにも欧米では食物繊維の摂取量と死亡リスクの関連は調べられており、食物繊維摂取量が多いほど死亡リスクが低いという結果が報告されていました。 しかし、アジアからの報告がなかったほか、日本人ではどのような食品から食物繊維を摂取することが死亡リスクと関連するのかについては調べられていませんでした。そこで、私たちは、多目的コホート研究において、食物繊維摂取量とその後の死亡リスクとの関連について検討しました。
食事調査アンケートの結果を用いて、食物繊維(総食物繊維・水溶性食物繊維・不溶性食物繊維)の摂取量を計算し、等分に5つのグループに分け、その後、平均約17年間の死亡(総死亡・がん死亡・循環器疾患死亡・心疾患死亡・脳血管疾患死亡)との関連を男女別に調べました。さらに食物繊維の摂取源ごとにも調べ、穀類、豆類、野菜類、果物類由来の食物繊維の摂取量でそれぞれ等分に5つのグループに分け、その後の死亡との関連を調べました。分析にあたって、年齢、地域、肥満度、喫煙、飲酒、身体活動、糖尿病(または服薬)の有無、降圧薬服薬の有無、健診受診の有無、月経状況(女性のみ)、ホルモン剤の使用(女性のみ) 、コーヒー、緑茶、食塩摂取量で統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。
食物繊維の摂取量が多いほど総死亡リスクが低い
食物繊維摂取量が多いほど男女ともに総死亡リスクが低下していました。死因別に調べると、男女ともに食物繊維摂取量が多いほど循環器疾患死亡のリスクが低下していました。がん死亡については男性では総食物繊維摂取量が多いほどがん死亡のリスクが低下していましたが、女性についてはその関連を認めませんでした。(図1)
図1 食物繊維摂取量と総死亡、がん死亡、循環器疾患死亡リスクとの関連
食物繊維の摂取源ごとに調べると、豆類、野菜類、果物類からの食物繊維は摂取量が多い人ほど総死亡リスクが低下していましたが、穀類からの食物繊維はその傾向が明らかでありませんでした。(図2)
図2 食物繊維の摂取源ごとの総死亡リスクとの関連
今回の研究からみえてきたこと
今回の研究で、日本人においても食物繊維の摂取量が多いほど死亡リスクが低いことが明らかとなりました。食物繊維は、血圧・血中脂質・インスリン抵抗性などに良い効果を及ぼすことが報告されています。一方、欧米の研究では、穀類由来の食物繊維の摂取量が多いと死亡リスクが低いとの報告がありますが、今回の研究では、穀類由来の食物繊維摂取量と死亡リスクとの関連は顕著でなく、豆類や野菜類、果物類由来の食物繊維摂取量は多いほど死亡リスクが低いという傾向が明らかでした。これは、欧米と比較して日本では穀類の中心が食物繊維含有量の少ない精白米であることが理由として考えられます。
今回の研究の限界として、1回のアンケート調査から計算された摂取量で計算しており、追跡中の食事の変化については考慮していないことや、統計学的に様々な要因は考慮しましたが、食物繊維の摂取量は健康的な行動を代表しているかもしれないことなどがあげられます。
これまで、食物繊維と死亡リスクの低下が報告されている多くの研究結果に基づくと、日本人の場合、食物繊維の摂取量を増やすために豆類や野菜類、果物類由来の食物繊維摂取量を増やすか、より食物繊維含有量の多い穀類(玄米、シリアル、全粒粉パン等)による食物繊維摂取量を増やすのがよい可能性があります。