多目的コホート研究(JPHC Study)
職業性座位時間とがん罹患リスクとの関連
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成12年(2000年)と平成15年(2003年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、がんや循環器疾患にかかっていなく、アンケートに回答した50~74歳の約3万3千人の男女を平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、職業性座位時間とがん罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたのでご紹介します。(Cancer Sci.2020 Mar;111(3):974-984)。
近年、日常生活の中での長時間座っていることが健康に与える影響について関心が高まっています。複数の研究をまとめたメタアナリシスにおいて、仕事の座位時間が長いと、普段適度に運動をしていても、がんのリスクが高くなることが報告されています。しかし、座位時間が長く、その中でも仕事中の座位時間が占める割合が多いと報告されている日本人において、仕事中の座位時間とがん罹患リスクについては調べられていませんでした。そこで、私たちは、多目的コホート研究において、職業性座位時間とその後のがん罹患との関連について検討しました。
アンケート調査の結果を用いて、仕事中の座位時間を1時間未満、1-3時間未満(基準)、3-5時間未満、5-7時間未満、7時間以上の5つのグループに分け、その後、平均約10年間の全てのがん罹患との関連を男女別に調べました。また、胃、食道、大腸、結腸、直腸、肝臓、膵臓、肺、腎臓、膀胱、前立腺、乳房、子宮体部における部位別の検討も行いました。分析にあたって、年齢、地域、肥満度、喫煙、飲酒、余暇の身体活動、糖尿病の有無などを統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。
職業性座位時間の長さは男性の膵がん、女性の肺がんの高リスクと関連
男性では、統計学的に有意ではありませんが、職業性座位時間が長いほど、がん全体の罹患リスクが高くなる傾向がみられました(図1)。部位別にみると、職業性座位時間が長いほど男性の膵がんの罹患リスクが高いという関連がみられました(図1)。また、統計学的に有意ではありませんが1時間未満を基準としたときに、職業性座位時間が長いほど男性の結腸がんリスクが高い傾向がみられました(傾向性p=0.06)。女性では、職業性座位時間が長いほど、肺がんの罹患リスクが高いという関連がみられました(図2)。
今回の研究から見えてきたこと
今回の研究結果から、職業性座位時間が長いことは、男性の膵がん、女性の肺がんリスクが高いことと関連する可能性が示唆されました。この理由として、身体活動の低下によるインスリン抵抗性の促進や慢性炎症などが、がん全体の共通したリスクと報告されており、特にインスリン抵抗性と関連のある膵がんでリスクが高かった可能性が考えられますが、はっきりとしたメカニズムはわかっていません。また、女性の肺がんについては、職場における肺がんのリスク要因と報告されている受動喫煙(リンク:受動喫煙とたばこを吸わない女性の肺がんとの関連について)などの影響があった可能性も考えられます。欧米の研究では、職業性座位時間が長いことで、肥満を介して結腸がんのリスクになることが報告されています。今回の結果では欧米の研究ほどはっきりとした関連はみられませんでしたが、日本人男性においても職業性座位時間が長いほど、結腸がんのリスクが高くなる可能性が示唆されました。
今回の研究では、職業性座位の継続時間や中断時間など、座位行動の詳細を把握出来なかったことが限界点としてあげられます。また、職業性座位時間が長い女性の人数が限られており、詳細な分析が出来なかったことも限界点としてあげられます。