多目的コホート研究(JPHC Study)
浴槽入浴頻度と虚血性心疾患・脳卒中発症リスクとの関連
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久にお住まいだった、40~59歳の男女のうち、循環器疾患及びがんの既往がなく、調査アンケートに回答した30,076人の方々を約20年間追跡した調査にもとづいて、浴槽入浴頻度と虚血性心疾患・脳卒中発症リスクとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(Heart.2020 May;106(10):732-737)。
浴槽入浴は日本で広く行われている習慣です。動物を対象とした研究や、少人数による短期的な介入研究では、浴槽入浴が糖尿病や肥満を改善することが示されていました。一方で、浴槽入浴が脳卒中や突然死を引き起こす報告があり、浴槽入浴と循環器疾患との関連はよくわかっていません。そこで、私たちは、多目的コホート研究において、浴槽入浴頻度と虚血性心疾患(心筋梗塞、心臓突然死)や脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)との関連を明らかにすることを目的としました。
浴槽入浴の頻度が多い人では、虚血性心疾患、脳卒中(脳出血・脳梗塞)の発症リスクが低い
研究開始時のアンケート調査の中で、浴槽入浴頻度に関する質問項目の回答から、対象者を「週2回以下」、「週に3-4回」、「ほとんど毎日」の3つのグループに分け、その後の虚血性心疾患および脳卒中発症との関連を調べました。約20年間の追跡期間中に328人が虚血性心疾患(心筋梗塞275人、心臓突然死53人)を発症し、1769人が脳卒中(脳梗塞991人、脳出血510人、くも膜下出血255人、不特定13人)を発症しました。浴槽入浴が「週2回以下」のグループと比較して、「ほとんど毎日」のグループの虚血性心疾患発症リスクが35%低下していましたが、心筋梗塞や心臓突然死については統計学的に有意な関連はみられませんでした(表1)。また、脳卒中の発症リスクは26%低く、病型別にみると脳出血で46%、脳梗塞で23%の低下がみられましたが、くも膜下出血では関連はみられませんでした(表2)。
この研究について
本研究は、浴槽入浴頻度が、虚血性心疾患および脳卒中(脳出血・脳梗塞)の発症リスク低下と関連することを示した、世界で初めての大規模で長期的な疫学研究からの報告です。
浴槽入浴は、お湯につかることで、体温の上昇、心臓の収縮力や循環血液量の増加などを引き起こすことが報告されており、運動をするのと同じような作用で循環器疾患の発症リスク低下と関連した可能性が考えられます。
浴槽入浴を頻繁に行う人は、健康な生活習慣や食事パターンをもっていると考えられることから、過去に多目的コホート研究(JPHC研究)で虚血性心疾患や脳卒中に関連していることが報告されている、BMI、飲酒、喫煙、運動、職業、教育歴、睡眠時間、ストレス、幸福感、野菜・果物・魚・大豆の摂取量を統計学的に調整しても、結果は大きく変わりませんでした。
日本には浴槽入浴の文化があり、日本人の長寿に影響を与えている可能性があります。しかしながら、入浴と疾患リスクに関する疫学研究はまだ少なく、入浴の健康全体に対する影響についての研究成果を蓄積していく必要があります。