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多目的コホート研究(JPHC Study)

野菜・果物摂取と白内障発症との関連について

 ―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立つような研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田、東京都葛飾の11保健所(呼称は2019年現在)にお住まいだった45~74歳の方々のうち、アンケート調査で「白内障と診断されたことがある」と答えた方を除いた約7万人を5年間追跡した調査結果にもとづいて、野菜・果物摂取と白内障発症との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Epidemiol.2021 Jan 5;31(1):21-29)。

主に欧米から報告されている先行研究では、ビタミンCやEが含まれている野菜や果物は白内障のリスクを下げることが報告されています(私たちのグループでもビタミンC摂取量が多いと白内障と診断される率が低くなることを報告しています(概要版:ビタミンC摂取と老人性白内障発症の関係について ))。白内障でおこる目の水晶体の濁りは、喫煙や糖尿病などによる酸化ストレスによると考えられているので、ビタミンCやEなどの抗酸化物質は白内障を予防することが期待されています。また、近年、アブラナ科野菜に含まれるイソチオシアネートという物質が、酸化ストレスから水晶体細胞を保護する可能性があることが報告されています。複数の研究をまとめたメタアナリシスにおいて、抗酸化物質摂取が白内障のリスクを下げることが報告されていますが、アジアにおける前向き研究はありません。そこで、私たちは、野菜・果物摂取がその後の白内障リスクに影響を与えるかどうかを調べました。

138食品が含まれる食品摂取頻度調査をもとに、果物(16品目)・野菜(30品目)の摂取量によって4つのグループに分け、最も少ないグループと比較して、その他のグループで白内障のリスクが何倍になるかを調べました。解析では、年齢、地域、喫煙、飲酒、BMI、サプリメント摂取の有無、過去1年間に健診で眼底検査を受けた経験の有無、野菜の解析時には果物摂取量、果物の解析時には野菜摂取量、について統計学的に調整し、摂取グループによるこれらの要因の違いが結果に影響しないように配慮しました。

 

男性において、野菜およびアブラナ科野菜摂取は白内障のリスクを下げる

今回の研究対象に該当した男性32387名、女性39333名のうち、5年間の追跡期間中に男性594名、女性1242名が白内障と医師から診断されたと報告していました。男性では、野菜およびアブラナ科野菜摂取量が最も少ないグループと比べて最も多いグループでは、それぞれ23%、27%のリスク低下がみられ、50g摂取ごとにリスクがさがる関連もみられました(図)。一方で、女性では、野菜摂取量が最も少ないグループと比べて最も多いグループでは、白内障リスクが28%増加しました。

図 野菜・果物摂取量が50gずつ増加することによる白内障のリスク

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この結果について

野菜・アブラナ科野菜摂取は、男性では白内障のリスク低下と関連が認められました。野菜に含まれる、ビタミン等の抗酸化成分、アブラナ科野菜に含まれるイソチオシアネートが白内障発症のリスク低下に関係していると考えられました。一方で、女性では、野菜摂取はリスク増加との関連が認められましたが、白内障は健診や病院に行くことで診断されることが多く、健康意識が高く野菜摂取量の多い女性は、健診などで白内障と診断される機会が多くなるため、見かけ上リスクがあがっているのではないかと考えられました。また、水晶体の濁りを女性ホルモンであるエストロゲンが保護しているという報告もあり、エストロゲン量が低下している高齢女性の野菜摂取量が多いための見かけ上の結果であることも考えられました。
欧米からの先行研究では、果物摂取は白内障のリスク低下が報告されていましたが、今回の研究では、男女とも、果物摂取と白内障との関連がみられませんでした。日本人の果物摂取量が海外と比べて少ないことが理由の一つとして考えられます。

今回の研究の限界として、白内障が自己申告であることがあげられますが、回答の妥当性を確認するために、対象者の一部の方に許可を得て過去の医療記録と照合したところ、白内障の診断について53名中49名(92.5%)で、自己申告による回答と医療記録の一致が確認され、ある程度正確であることを報告しています。

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