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多目的コホート研究(JPHC Study)

睡眠時間と死亡リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田、東京都葛飾の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、調査アンケートに回答し、がんや循環器疾患、糖尿病になっていなかった男女約10万人を、平成26年(2014年)まで追跡した調査結果にもとづいて、睡眠時間とその後の全死亡及び主要な死因別にみた死亡リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Journal of Epidemiology 2020年2月 ウェブ先行公開)。

睡眠時間は長くても短くても死亡リスクと関連することが男女ともに知られています。日本は、国際的にも平均睡眠時間が短い国と報告されています(経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)加盟国の中でも平均睡眠時間が2番目に短い国です)。また、高齢者では睡眠時間が短くなる傾向があることから、睡眠時間の影響を考えるには、年齢別に分析する必要があります。しかし、これまでの研究では年齢別には十分に検討されていませんした。そこで、日本人を対象として、睡眠時間と全死亡及び主要な死因別にみた死亡リスクを性年齢別に検討しました。

対象者(99860人、男性46152人、女性53708人)から回答いただいた研究開始時の調査アンケートの結果をもとに、日頃の睡眠時間を5時間以下、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間以上のグループに分け、その後、平均約20年の追跡中に、18042人(男性:11259人、女性:6783人)の死亡が確認されました。死亡に関連する年齢、地域、喫煙、飲酒、緑茶摂取、コーヒー摂取、独居状況、健診受診の有無、余暇の運動頻度、高血圧、ストレス、肥満度(BMI)の影響を統計学的に調整し、睡眠時間が7時間のグループと比較した他のグループの、その後の死亡リスクとの関連について検討しました。

 

男女とも睡眠時間が長いと全死亡リスクが高い

平均睡眠時間は男性で7.4時間、女性で7.1時間でした。男女とも睡眠時間が10時間以上のグループでは、年齢が高く、コーヒーを摂取している割合が少なく、余暇の運動頻度が多く、心理的ストレスがあると感じている人が多い傾向でした。一方で、睡眠時間が5時間以下の人は、男性では、BMIが大きく、心理的ストレスがあると感じている人が多く、喫煙習慣や飲酒習慣がなく、独居の人が多い傾向でした。女性では、飲酒習慣がなく、健診を受診し、心理的ストレスを感じ、現在または過去喫煙のあった人が多い傾向でした。

睡眠時間が7時間のグループと比べて、10時間以上では、死亡全体のリスクが男性で1.8倍、女性で1.7倍高くなりました(図1左)。循環器疾患死亡については、男性で、7時間のグループと比べて、9時間以上でリスクが高い関連が示されました(図1中央)。睡眠時間とがん死亡リスクとの関連はみられませんでした(図1右)。
研究開始時の年齢別に、睡眠時間と死亡リスクとの関連について検討しましたが、特徴的な違いはありませんでした。
また、死亡原因になるような病気になったことにより、睡眠時間が変化することによる影響を除くために、調査開始後5年以内の死亡を除外した解析も行いましたが、結果は変わりませんでした。

図1:睡眠時間と死亡リスクとの関連

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今回の結果からみえてきたこと

今回の結果から、日本人では、睡眠時間が7時間のグループと比較して睡眠時間が長い場合に、死亡リスクが増加することが示されました。この背景に、どのようなメカニズムがあるのかは、まだ解明されていません。短時間睡眠では、食欲を抑制するホルモンであるレプチンの分泌が低下し、食欲を高めるホルモンであるグレリンの分泌が増加することにより、結果的に食欲が増して肥満を引き起こすことが考えられています。一方で、長時間睡眠では、閉塞性睡眠時無呼吸が多くなり死亡リスクの増加と関連することが考えられます。また、長時間睡眠では病気を持っている人が多く、より死亡に結びつきやすいことも示唆されています。今後の研究によって、睡眠時間と死亡リスクに関する更なるメカニズムの解明が必要です。

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