多目的コホート研究(JPHC Study)
肉類、魚介類、および飽和脂肪酸摂取と肺がん罹患との関連
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の 9保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった、45~74歳の方々のうち、食事調査アンケートに回答した男女約7万3千人を平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、肉類、魚介類、および飽和脂肪酸の摂取とその後の肺がん罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Int J Cancer.2020 Dec 1;147(11):3019-3028)。
肺がん罹患に最も影響のあるリスク因子は喫煙習慣ですが、食事との関連も報告されています。肉類や飽和脂肪酸の摂取は、欧米の研究で肺がん罹患のリスク因子であることが示唆されていますが、これまで日本を含むアジアでの疫学研究はほとんどありませんでした。また、魚介類と肺がん罹患との関連についても結果は一致していません。そこで、肉類、魚介類、および飽和脂肪酸の摂取と肺がん罹患との関連について男女別に検討しました。
2013年までの追跡期間中に、男性約3万3千人、女性約4万人のうち、それぞれ901人、414人が肺がんに罹患しました。食事調査アンケートの結果を用いて、総赤肉(牛、豚、ロースハム、ウィンナー・ソーセージ、ベーコン、ランチョンミート缶詰、鶏レバー)・未加工赤肉(牛、豚、鶏レバー)・加工赤肉(ロースハム、ウィンナー・ソーセージ、ベーコン、ランチョンミート缶詰)・鶏肉・魚介類・飽和脂肪酸の摂取量を等分に4つのグループに分け、最も少ないグループと比較して、その他のグループのその後の肺がんの罹患リスクについて調べました。解析にあたっては、年齢、地域、喫煙、飲酒、余暇の身体活動、肥満度、総エネルギー摂取量、野菜と果物の摂取量を、グループによる違いが結果に影響しないように統計学的に調整しました。
赤肉の摂取量が多い男性で、肺がんの罹患リスクが高い傾向がみられた
解析の結果、男性において、総赤肉、未加工赤肉の摂取量が多いグループでは、肺がん罹患リスクが高い傾向がみられました。しかし、鶏肉、魚介類、飽和脂肪酸と肺がんの罹患リスクとの関連はみられませんでした(図1)。女性においては、肉類、魚介類、および飽和脂肪酸摂取と肺がんの罹患リスクとの関連はみられませんでした(図2)。
図1.肉類、魚介類、および飽和脂肪酸摂取と肺がん罹患リスクとの関連(男性)
図2.肉類、魚介類、および飽和脂肪酸摂取と肺がん罹患リスクとの関連(女性)
この研究について
今回の研究から、男性では、赤肉の摂取量が多いグループにおいて肺がんの罹患リスクが高い傾向がみられました。なぜこのような結果が得られたか、はっきりとしたメカニズムはわかりませんが、肺がんの罹患リスクが高かった理由として、赤肉を調理することよって生じる発がん性物質や保存料が原因である可能性が考えられます。赤肉は、高温で調理する時に、発がん性物質(ヘテロサイクリックアミンや多環芳香族炭化水素など)が生成されること、また加工肉には、食肉の加工や保存する過程で、発がんの可能性のある化学物質(ニトロソ化合物)が使用されることがあります。これらの化学物質の影響によって、肉類の摂取量が多いグループでは肺がんの罹患リスクが高い傾向であったことが考えられます。また、飽和脂肪酸を過剰に摂取すると、炎症反応が生じることなどで発がん性が高まる可能性がありますが、これまでの研究結果は一致しておらず、今回の結果からも、飽和脂肪酸の摂取と肺がん罹患リスクとの関連はみられませんでした。
なお、肉類、魚介類、および飽和脂肪酸摂取と肺がん罹患との関連については、過去の疫学研究も含めて一貫しない結果が報告されており、今回の結果を確認するためには今後のさらなる研究が必要です。