トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >フラッシング反応別にみた飲酒とがん罹患リスクとの関連について
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

フラッシング反応別にみた飲酒とがん罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。
平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所管内にお住まいだった方々のうち、がんや循環器疾患にかかったことのない40~69歳の男女約5万7千人を、平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、飲酒によるフラッシング反応と飲酒量が、がんリスクに与える影響を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介いたします(Prev Med.2020 Feb 11;133:106026)。

日本人は、お酒を飲んだ時に顔が赤くなる反応(フラッシング反応)を起こしやすい「お酒に弱い体質」の人の割合が、欧米よりも多く、これはアルコール代謝に重要な役割をはたしているアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の働きが弱い(低活性型)、または、全くない(非活性型)人が多いことに由来しています。また、国際がん研究機関による報告では、アルコールの一種であるエタノール(アルコール飲料に含まれています)や、代謝産物のアセトアルデヒドについては、ヒトに対する発がん性が指摘されています(グループ1:5段階評価で最も上の分類)。これまでの研究で、いくつかの部位のがんについては、飲酒とがん罹患のリスクの大きさについて検討されています。しかし、フラッシング反応を考慮した時に、飲酒が、がん罹患へどの程度寄与しているかについては、よく分かっていませんでした。そこで、日本人を対象として、フラッシング反応別に、飲酒によるがん罹患リスクの大きさ、および、がん罹患への寄与の度合について検討しました。

研究開始時、5年後調査時及び10年後調査時にお酒を飲む頻度と一日当たりの飲む量に関する質問への回答から、研究開始から10年以内は研究開始時と5年後調査の飲酒量の累積平均飲酒量、研究開始10年目以降は研究開始時から5年後調査及び10年後調査時の累積平均飲酒量を計算して週当たりのエタノール換算飲酒量を算出しました。男性は、過去に飲酒していたがやめた、お酒を飲まない、機会飲酒(月1~3日)、週0~149g、週150~299g、週300~449g、週450g以上という7つのグループに分類しました。女性は、過去に飲酒していたがやめた、お酒を飲まない、機会飲酒(月1~3日)、週1~149g、週150g以上という5つのグループに分類しました。エタノール換算飲酒量の目安は、週150gの場合、ビール大瓶で約7本、あるいは日本酒で約7合になります。今回の研究では、自己申告によるフラッシング反応のあり・なし別に、これらの各グループとその後のがん罹患との関係を検討しました。分析にあたって、年齢、地域、喫煙習慣、運動習慣、野菜摂取について統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。

 

フラッシング反応のある人では、飲酒によるがん罹患のリスクが高い

今回の研究の追跡期間中に、8486人ががんに罹患し、そのうち4386人が飲酒に関連するがん(口腔がん・咽喉頭がん・食道がん・胃がん・大腸がん・肝臓がん・乳がん)に罹患しました。
男性において、フラッシグ反応のない人では、飲酒関連がんのリスクはお酒を飲まない人(非飲酒)と比較して、週450g以上の大量飲酒で統計学的に有意に高くなりました(図1左)。フラッシング反応のあるお酒に弱い体質の人では、少量の飲酒量でも飲酒関連がんのリスクは統計学的に有意に高くなりました(図1右)。
女性においては、フラッシング反応の有無に分けない全体の分析で、週150g以上の飲酒で飲酒関連がんリスクが高かったものの、フラッシング反応の有無で分けた場合、がん全体・飲酒関連がんともに、罹患リスクとの関連はみられませんでした(図なし)。

 

図1 フラッシング反応別の飲酒量とがん罹患リスク(男性)

361_1

 

飲酒に関連するがんでは、男性でフラッシング反応のない人が飲酒に起因してかかるがんの割合の方が、フラッシング反応のある人が飲酒に起因してかかるがんの割合より多い

飲酒に関連するがんのうち、飲酒がなければ、がんにならずに済んだと考えられるがんの割合(寄与危険割合)は、男性でフラッシング反応のない人では11.0%(図2左)、フラッシング反応のあるお酒に弱い体質の人では8.8%でした(図2右)。また、週300g以上の飲酒の寄与危険割合は、フラッシング反応のない人では5.8%(図2左)、フラッシング反応のあるお酒に弱い体質の人では3.8%でした(図2右)

 

図2 フラッシング反応別の飲酒量による飲酒関連がんの寄与危険割合(男性)

361_2

 

今回の研究から見えてきたこと

本研究の結果から、フラッシング反応のあるお酒に弱い体質の男性は、少量の飲酒量でも飲酒量が増加すればするほど、がんの罹患リスクが高かったことが分かりましたが、高用量の飲酒をする男性は、フラッシング反応のあるなしにかかわらず、飲酒に関連するがんの罹患リスクが高いということがわかりました。この理由として、フラッシング反応のある人は、発がん性のあるアセトアルデヒドの分解が遅いことが、がんのリスクを増加させているのではないかと考えられますが、大量飲酒になりにくいために寄与危険割合としては小さかった可能性があります。一方、フラッシング反応のない人は、大量飲酒に結びつき、その割合が多くなることで寄与危険割合を上げている可能性があり、大量飲酒によるアルコール代謝の遅れや蓄積が、がんのリスクを増加させているのではないかと考えられます。
飲酒に関連するがんの対策としては、リスクの高い(フラッシング反応のあるお酒に弱い体質の)集団への節酒(「高リスクアプローチ」)と、お酒に強い弱いなどの体質の有無にかかわらずすべての飲酒者への節酒(「集団アプローチ」)の両方が必要であることが示唆されました。

今回の研究では、飲酒量やフラッシング反応については自己申告のため、正しく分類されていないことが解析に影響している可能性や、遺伝子そのものを調べた結果ではないので、実際のALDH2遺伝子多型とフラッシング反応の有無が不一致である可能性もあります。また、飲酒開始年齢から調査開始時までの飲酒に関する情報がないため、生涯飲酒量に基づく研究ではないことが、研究の限界として考えられます。女性については特に飲酒量の多いグループの解析対象者が少なかったため、今後のさらなる研究が必要です。

上に戻る