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現在までの成果

体格と脳腫瘍の罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の約10万人の方々を平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、体格(Body Mass Index, BMIと身長)と脳腫瘍罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Ann Epidemiol 2020年8月ウェブ先行公開)。

脳腫瘍には多くの種類が存在しますが、そのうち、脳腫瘍全般として発生頻度が高いものに髄膜腫(メニンジオーマ)、悪性脳腫瘍として発生頻度が高いものに神経膠腫(グリオーマ)があります。メニンジオーマの大半は良性腫瘍ですが、脳を圧迫するために手術が必要となることもあり、グリオーマは治療が難しい悪性脳腫瘍でもあることから、いずれも予防因子をみつけることは重要です。
BMIは様々ながんと関係していることが報告されており、欧米の疫学研究を複数まとめたメタアナリシスでは、BMIが高いとメニンジオーマのリスクが高くなることを報告していますが、グリオーマについてはよくわかっておらず、欧米人とは体格の異なるアジア人からの報告はありませんでした。
身長は欧米の疫学研究を複数まとめたメタアナリシスにおいて、低身長(160㎝未満)と比較して高身長(190㎝以上)でグリオーマのリスクが約2倍であることが報告されていますが、アジア人の研究では、関係がなかったことを報告した中国からの研究一つのみでした。そこで、私たちは、欧米人とは体格の異なる日本人における、体格(BMIと身長)と脳腫瘍との関連を調べました。

 

BMIが高いグループで男性の脳腫瘍のリスクが高くなり、種類別ではメニンジオーマのリスクが高くなる

本研究の追跡期間中(平均18.1年)に、157名(男性70名、女性87名)の脳腫瘍罹患が確認されました。脳腫瘍の種類別では、男女合わせて、グリオーマが60名、メニンジオーマが、51名でした。調査開始時のアンケート調査から、調査時のBMI(体重(kg)÷身長(m)2)を算出し、5つのグループ(14-<18.5, 18.5-<23, 23-<25, 25-<27.5, 27.5-<40)に分け、BMI18.5-<23を基準グループとして、各グループの脳腫瘍罹患リスクを男女別、種類別に検討しました。

BMI18.5-<23のグループと比較してBMI27.5以上のグループで男性のリスクが増加しており(ハザード比2.14、95%信頼区間0.99-4.59)、BMIが増加すると男性の脳腫瘍の罹患リスクが増加する傾向がみられました(傾向性P値=0.03)。女性では関連はありませんでした(図1)。
脳腫瘍の種類別にみると、グリオーマでは関連はみられませんでしたが、メニンジオーマでは、BMIが増加するとリスクが増加する傾向がみられました(傾向性P値=0.046)(図1)。
一方、調査開始時に調査アンケートから得られた身長を、男女別に身長の低いほうから3つのグループ(男性:<162、162-<167、≧167 女性:<150、150-<154、≧154)にわけて脳腫瘍の罹患リスクを検討しましたが、関連はみられませんでした。

 

図1.BMIと脳腫瘍の罹患リスクとの関連

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年齢、喫煙状況、飲酒状況、緑茶摂取、コーヒー摂取、糖尿病・アレルギーの既往歴の影響を統計学的に調整 (グリオーマ、メニンジオーマは、さらに性別を調整)

 

さらなる研究結果の蓄積が必要

これまで主に欧米で行われた先行研究を統合したメタアナリシスの結果では、BMIが高いとメニンジオーマのリスクが高くなることが報告されており、今回の結果は、体格の異なるアジア人でも同様の結果がみられました。そのメカニズムとして、肥満に関連する慢性炎症や脂肪細胞から産生されるエストロゲンが関係していることが報告されていますが、本研究では、体格と脳腫瘍の関連が男性でのみ見られたことから、日本人の脳腫瘍の罹患には慢性炎症がより関係している可能性が考えられます。また、先行研究では、高身長(190㎝以上)でリスクが高くなることが報告されていますが、本研究における身長の最高カテゴリーが先行研究と比べて高くないため、グループ間の身長の幅が狭いことから、同じ結果は得られなかったと考えられます。

研究の限界点として、本研究で使用された体格は、調査開始時の1度の調査アンケートの回答によるもので、追跡期間中の体格の変化の影響を考慮できていないことが挙げられます。また、男性の一番高いBMIのグループでは脳腫瘍の症例数が10例と少なかったことから、今回の結果が偶然に得られた可能性も否定できないことなどが挙げられます。そのため、今後も日本を含めたアジアから、さらなる研究結果の蓄積が必要です。

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