多目的コホート研究(JPHC Study)
生活習慣リスク因子とABC分類を用いた個人の胃がん罹患予測モデルの精度について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。私たちが2015年に報告した、10年間で胃がんに罹患する確率の予測モデルの精度を確認するために、秋田県横手市雄物川町(呼称は2019年現在)にお住まいだった45~64歳の約1300人において検討を行った結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Cancer Epidemiol 2020年8月公開)。
胃がん罹患のリスク予測モデル
私たちがこれまでに報告した10年間に胃がんに罹患する予測モデルは、性別、年齢、喫煙、胃がんの家族歴、高塩分食品の摂取、胃がんのリスク分類である「ABC分類」に基づいて構築されています(https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3693.html)。ABC分類とは、血液の測定値で判定された、ヘリコバクター・ピロリ感染の有無と萎縮性胃炎の有無から、胃がんのリスクを分類したものになります。そのため、今回の対象者は、調査アンケートに回答し、ヘリコバクター・ピロリ感染と萎縮性胃炎の結果がある人を、本研究の対象としました。
予測モデルの精度を確認
私たちが報告した10年間で胃がんに罹患する予測モデルは、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の対象者で作成されました。この予測モデルの精度を確認するため、報告した予測モデルで検討した地域とは異なる地域の対象者において、予測モデルによる胃がんの罹患割合と、実際に確認された胃がんの罹患割合について検討を行いました。
今回の対象地域の秋田県横手市雄物川町における約1300人において、10年間に27人が胃がんに罹患しました。今回の研究結果において、予測モデルによる胃がんの罹患割合と、実際に観察された罹患者の割合は近いことが確認できました(図1)。また、私たちが以前報告した予測モデルによる胃がんになる確率が低いもしくは高いと予測された方々と、実際に胃がんと診断された方々の割合の一致の程度は良好でした(c-統計量※ 0.798 [95%信頼区間: 0.725 to 0.861])。
※c-統計量は、0.5が最小値、1.0が最大値で、1.0に近づくほど精度が高いことを示します。
図1.10年間の追跡期間中の予測モデルと実際の胃がん罹患率の比較
この研究から見えてきたこと
今回の研究では、秋田県雄物川町にお住まいだった約1300人を対象として、胃がん罹患予測モデルの精度の検討を行いました。研究結果から、以前報告した予測モデルで検討した地域以外の対象者でも、10年間の胃がん罹患の予測モデルによる胃がん罹患割合は、実際に観察された胃がんの罹患者の割合とのずれが小さいことが確認されました。このことから、胃がん罹患の予測モデルは、予測モデルを検討した一部の対象者だけでなく、日本人への一般化が可能であることが考えられました。しかしながら、今回の研究の限界として、対象者数が少なく胃がんの罹患者数が少なかったことなどが挙げられます。そのため、今後、より大規模な集団で、胃がん罹患の予測モデルの精度に関する研究が必要です。
研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、人を対象とした医学研究における倫理的側面等について審査を受けてから開始します。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。
多目的コホート研究では、ホームページに保存血液を用いた研究計画のご案内を掲載しています。