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現在までの成果

血中のアポリポタンパクA2のアイソフォームと心筋梗塞の発症リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、循環器疾患、がんの既往のない40~69歳の男女約3万人の方々の協力をいただきました。平成14年(2002年)までの追跡結果に基づき、保存血液を用いたコホート内症例対照研究を行い、アポリポタンパクA2のアイソフォーム(注1)と心筋梗塞との関連について調べた結果を専門誌に論文発表しましたので紹介します(J Atheroscler Thromb 2020年8月ウェブ先行公開)。

注1:単一の遺伝子または遺伝子ファミリーに由来する、高度に類似した一連のタンパク質の種類を意味します。

HDL(High density lipoprotein, 高比重リポタンパク)に含まれるHDLコレステロール(善玉コレステロール)は、これまでの研究から、その値が低い人は心筋梗塞の発症リスクが高いことが知られています。しかし、HDLの生体内での働きについては、わかっていない点が多く、さらなる研究の必要性が指摘されていました。アポリポタンパクA2はHDLの構成成分の一つであり、いくつかのアイソフォームに分けられます。そこで私たちは、3種類のアポリポタンパクA2のアイソフォームについて、心筋梗塞発症との関連を調べました。

 

保存血液を用いた、コホート内症例対照研究

多目的コホート研究のベースライン調査アンケートに回答のうえ、健診などの機会に血液を提供してくださった40~69歳の男女約3万人の方々を対象に追跡調査を行いました。研究開始から平成14年(2002年)末までに106例の心筋梗塞の発症が確認されました。心筋梗塞を発症した方1人に対し、心筋梗塞を発症しなかった方から、性別・年齢・血液提供日・採血前の食事時間・地域がマッチする対象2人を無作為に抽出し、合計318人を解析の対象者としました。アポリポタンパクA2のアイソフォームは、今までに5種類あることが明らかになっており、このうち今回は主要な3種類(ApoA2-ATQ/ATQ、ApoA2-ATQ/AT、ApoA2-AT/AT)について、血清中の濃度を測定しました。

 

血中のアポリポタンパクA2のアイソフォームと心筋梗塞発症との間に関連は見られなかった

3種類のアポリポタンパクA2のアイソフォームの値それぞれにおいて、値が最も高い人から低い順に、各グループの人数が等しくなるように4グループに分け、最も濃度が高いグループを基準としました。心筋梗塞のリスクと関連のある体格、収縮期血圧値、降圧剤の服薬、糖尿病、喫煙や飲酒習慣、血清HDLコレステロール値、血清中性脂肪値による影響を統計学的に調整し、一番濃度が高いグループを基準とした場合の他のグループの心筋梗塞の発症リスクを比較しました。その結果、3種類のアポリポタンパクA2のアイソフォームのうち、ApoA2-AT/ATにおいてのみ、最も高いグループと比べ最も低いグループでは、心筋梗塞の発症リスクが高くなりましたが(図1左図)、飲酒などアポリポタンパクA2アイソフォームの値を変動させる他の要因の影響を取り除くと、心筋梗塞の発症リスクとの関連はみられませんでした(図1右図)。ほかの2種類のアポリポタンパクA2のアイソフォームにおいても、他の要因の影響を取り除くと心筋梗塞の発症リスクとの関連はみられませんでした。

  

図1.アポリポタンパクA2のアイソフォームの4分位別にみた心筋梗塞発症との関連

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この研究から

本研究で検討したアポリポタンパクA2のアイソフォームと心筋梗塞の発症リスクとの関連はみられませんでした。これまでの疫学研究では、アポリポタンパクA2のすべてのアイソフォームの合計血中濃度が高いと冠動脈疾患のリスクが低いという関連が報告されていますが、私たちの研究では、アポリポタンパクA2のすべてのアイソフォームの合計血中濃度を測定できていないため、関連はわかりませんでした。限界点としては、解析対象者の人数が限られることなどがあげられるため、今後さらなる研究が必要です。

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っております。

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