トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >大豆食品・イソフラボン摂取と前立腺がん死亡との関連について
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

大豆食品・イソフラボン摂取と前立腺がん死亡との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、東京都葛飾、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいで、過去にがんや循環器疾患にかかったことのない45~74歳の約4万4000人の男性を平成28年(2016年)まで追跡した調査結果にもとづいて、大豆食品・イソフラボン摂取と前立腺がんの死亡リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Int J Epidemiol.2020 Oct 1;49(5):1553-1561)。

大豆食品、および、大豆食品に多く含まれるイソフラボンは、多くの疫学研究で、前立腺がんに予防的にはたらくことが報告されており、その理由の一つとして、イソフラボンの化学構造が女性ホルモン(エストロゲン)と似ており、エストロゲン作用があることが考えられています。ところが、私たちが過去に報告した前立腺がんの罹患リスクとの関連(大豆製品・イソフラボン摂取量と前立腺がんとの関連について)を含め、複数の疫学研究において、大豆・イソフラボン摂取と前立腺がんの関連が検討されていますが、がんの進行度によって結果が一致しておらず、また前立腺がんの死亡リスクとの関連を検討した研究は、これまでに行われていませんでした。そこで、私たちは、大豆食品・イソフラボンの摂取量からグループ分けを行い、その後に確認された前立腺がんの死亡リスクとの関連を調べました。

食事調査アンケートの結果を用いて、総大豆食品・各大豆食品(納豆、みそ、とうふ類)、イソフラボンの摂取量を計算し、等分に5つのグループに分け、最も少ないグループと比較したその他のグループの、その後の前立腺がんの死亡リスクを調べました。分析にあたって、年齢、地域、肥満度、喫煙・飲酒習慣、余暇の身体活動、糖尿病の有無、健診・検診受診の有無、コーヒー・緑茶の摂取頻度、果物類・野菜類の摂取量で統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。

 

大豆食品、イソフラボン摂取が多いグループでは前立腺がん死亡のリスクが高い

本研究の追跡期間中(平均16.9年)に、221名の男性の前立腺がん死亡が確認されました。
総大豆食品・イソフラボン摂取量が多ければ多いほど、前立腺がん死亡リスクが高いという関連がみられました。また、総大豆食品の摂取量が最も低いグループと比較して、最も多いグループでは、前立腺がんの死亡リスクが1.76倍高いという関連がみられ、大豆食品別にみると、みそでも同様の関連がみられました(図1)。

 

図1.大豆食品・イソフラボンの摂取量と前立腺がんの死亡リスク

371_1

 

さらなる研究結果の蓄積が必要

今回の研究では、大豆食品・イソフラボンの摂取量が多いと、前立腺がんの死亡リスクが高いという関連が見られました。
イソフラボンが前立腺がんに予防的にはたらくメカニズムの一つとして、イソフラボンのもつエストロゲン作用が考えられていますが、進行前立腺がんでは、エストロゲンの受容体が少なくなると報告されており、イソフラボンの作用が弱まる可能性が考えられます。また、動物実験では男性ホルモン(アンドロゲン)が少ないマウスでは、イソフラボンはアンドロゲン作用を示すという報告があり、前立腺がんの治療で使用する抗アンドロゲン剤の効果を妨げる可能性も考えられます。本研究では、治療の情報がなく検討ができませんでしたので、今後、前立腺がん患者を対象とした研究が必要です。
大豆食品別にみると、みその摂取量が多いとリスクが高いという関連がみられた一方で、同じ発酵性大豆食品である納豆では関連は見られませんでした。納豆は、みそと比較して、100gあたりの食物繊維やたんぱく質が多く、先行研究では、診断前に、食物繊維やたんぱく質を多く含む食事をしていたグループのほうが、前立腺がん治療の効果があることが報告されています。そのため、納豆の摂取量が多いグループでは、食物繊維やたんぱく質摂取がイソフラボンの影響を打ち消すよう作用したのかもしれません。
今回の研究の限界として、1回のアンケート調査から計算された摂取量で計算しており、追跡中の食事の変化については考慮できていないことや、前立腺がんになった後の治療の情報がないことなど、いくつかの要因について統計学的に十分調整できていないことがあります。
先行研究においてイソフラボン摂取が限局前立腺がんと進行前立腺がんでリスクが異なることは報告されていましたが、前立腺がんの死亡リスクとの関連を明らかにしたのは、この研究がはじめての報告になります。そのため、本研究の結果を確認するためには、今後の研究結果の蓄積が必要です。
なお、今回は前立腺がん死亡との関連に着目しましたが、大豆食品摂取については、これまでに大豆食品・イソフラボン摂取は他の部位のがんや死亡、循環器疾患などのリスク低下と関連することが報告されており、他の疾患への影響を含めて総合的に考えることが大切です。

上に戻る