多目的コホート研究(JPHC Study)
尿路結石の既往と脳卒中・虚血性心疾患発症リスクとの関連
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、平成10年(1998年)に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の計9保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった、45~74歳の男女のうち、循環器疾患及びがんの既往がない89,037人を約12年間追跡した結果にもとづいて、尿路結石の既往と脳卒中・虚血性心疾患発症リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Atheroscler Thromb 2020年11月公開)。
尿路結石になる人は、世界的に増加傾向にあり、日本でも、1年間に尿路結石となる10万人あたりの人数を1965年と2005年で比べたところ、男性では81.3人から165.1人へ、女性では29.5人から65.1人へと40年間で約2倍に増加しています。高血圧・糖尿病・脂質異常症のように、尿路結石になりやすい人の特徴は、脳卒中や虚血性心疾患になりやすい人の特徴と似ていることが報告されています。しかし、尿路結石になりやすい人が脳卒中や虚血性心疾患になりやすいという報告もあれば、関係ないという報告もあり、よくわかっていません。そこで、本研究では、日本人において、尿路結石の既往とその後の脳卒中・虚血性心疾患の発症との関連について明らかにすることを目的としました。
尿路結石の既往と脳卒中や虚血性心疾患とは関連しない
調査開始時のアンケートで、尿管結石や腎結石の既往があると回答した人とない人について、その後の脳卒中および虚血性心疾患発症との関連を検討しました。その結果、尿管結石や腎結石の既往があると回答した人は1,167人いました。また、約12年間で、4,415人が脳卒中を、1,029人が虚血性心疾患を発症しました。尿路結石の既往がない人と比べて、尿路結石の既往がある人の脳卒中のかかりやすさ、虚血性心疾患のかかりやすさともに関連はみられませんでした(図1)。男性と女性に分けて解析した場合も、年齢別(45~59歳と60~74歳)に分けた場合でも、関連はみられませんでした。
図1.尿路結石の既往と脳卒中・虚血性心疾患発症リスクとの関連
研究結果について
本研究の結果から、尿路結石の既往の有無は、その後の脳卒中や虚血性心疾患の発症と関連しないことが分かりました。
米国やカナダ、台湾で行われた先行研究では、尿路結石の既往がある人は虚血性心疾患のリスクが高いという報告があります。また、複数の疫学研究をまとめたメタアナリシスでも、脳卒中や虚血性心疾患のリスクが上がることが報告されています。本研究で関連がみられなかった理由として、尿路結石の既往のあると回答した人の平均年齢が先行研究と異なることなどが考えられました。本研究では尿路結石の既往があるグループでの平均年齢は55.5歳でしたが、他国の研究では、それぞれ、台湾が46.5歳、カナダが46.0歳、米国の研究では37.5歳でした。今回は過去の既往歴をたずねているので単純な比較はできませんが、米国の他の研究において、尿路結石と虚血性心疾患との関連は、高齢者より若年者の間で強かったという報告もあります。
本研究では、尿路結石の既往は脳卒中や虚血性心疾患の発症と関連がみられませんでしたが、本研究では、自己申告で尿路結石を把握したため、尿路結石の回数や大きさ、治療の有無などの情報が得られていないため、より詳細な研究が必要と考えられます。